うさ耳くんと、山の中 ⑤
自分の五感を研ぎ澄ませて、暗闇の中で気配を感じ取る。
何度も父さんと兄さんに付き合ってもらって夜の山へと顔を出せば、少しずつ、夜の山の魔物への対策に慣れてくる。
俺は確かに自分が学習している実感を感じて、なんだか嬉しくなった。
自分の気配を殺すことにも徐々に慣れてくる。
――よっぽどそれが上手くならないと、隠れて近づいても気づかれたりするからこういう能力を極めるのは大事だと思った。
それにしても俺自身が小柄だからこそ、周りに悟られないように動くのは父さんや兄さんよりもやりやすい。
俺はうさぎの獣人よりも、かっこいい獣人の方が良かったとは思っていたけれど――、こういう点はうさぎの獣人であることの有利な点だと思う。
あと父さんと兄さんの前で、うさ耳を武器にして戦ったりもしている。
耳を武器にしている俺を見て、少しだけ引いたような様子を浮かべていた。でも俺のことを二人は受け入れてくれている。
なんだかんだ家族だからって、こうやって受け入れてもらえるのが嬉しい。
やっぱり家族に否定されると凄く悲しい気持ちになるし、転生先で俺は良い家族に恵まれているなと思った。
「ユーリ、その可愛い耳でどうやって倒しているんだ? 本当に怪我をしないか?」
「うん。武器に出来るように硬くしているし。結構難しいけれど、耳で戦えるのってかっこいいじゃん」
「ユーリはそういうところ、面白いよな。触ると柔らかいのになぁ」
「ちゃんと戦う時だけ武器にしているんだよ」
「……耳で突撃するのって前が見えなくないか?」
「そのために五感をふさいでも大丈夫なようにしているんだよ、兄さん」
「本当にユーリは凄いな」
兄さんは俺のことを褒めて、わしゃわしゃと頭を撫でる。
頭を撫でられるのは気持ちが良いけれど、あんまり撫でられるのも子供扱いされている気分になるのですぐに拒否した。
それにしても兄さんは背が高いんだよなぁ。
兄さんが俺と同じ年だった時に俺よりも背が高かったんだよな。大人になっても俺は背が高くなれなさそうだなっていうのはちょっと何とも言えない気持ちになる。
でもまぁ、ないものねだりをしても仕方ないし頑張るしかないけれど。
ただ流石に耳を武器にして使うのは許してもらえても、目や耳などをふさいで戦おうとしたら止められてしまう。
「ユーリ、流石に夜の山でそれはやめた方がいいと思う」
「でも出来るようになった方がかっこいいと思うんだ。俺は五感を塞がれても戦えるようになりたいから」
「ユーリは本当に無茶しようとするなぁ。そんなことばかりしていると怪我をしてしまうと思うが」
「強くなりたいんだから、無茶をするのは当然だって。俺はノアレにかっこいいって言ってもらえるようにもっと頑張りたいもん。兄さんも好きな子に良い顔をしたい気持ちは分かるだろ?」
「まぁ……。そうだな。よし、俺も父さんを説得するのを手伝おう」
「ありがとう、兄さん!!」
兄さんも俺が五感をふさいで夜の山で戦おうとしていると流石に止めていた。けれど、兄さんも好きな子のために良い顔をしたい気持ちを分かってくれているからか、一緒に父さんを説得してくれることになった。
なんだかんだ兄さんって俺に甘いんだよなぁ。兄さんだけじゃなくて、母さんと父さんも。俺を可愛がってくれているからこそ、俺が変なことをしていても受け入れてくれているというか。
学園に入学したらノアレとは再開が出来るけれど、家族とは離れなきゃいけないんだよな。そう思うとちょっとだけ寂しい気持ちにもなる。学園に入学するまでに家族たちともっといろんな思い出を作りたいなとも思う。
「……仕方ないな。ただ本当に危なければ止めるからな」
父さんは俺と兄さんで説得したら、頷いてくれた。
そういうわけで、俺は夜の山で五感をふさぎながら動くことを始めた。
目をふさいだり、耳をふさいだりしながら魔物を感知する。やっぱり難しいのだけど、何度も何度も続けると、五感が研ぎ澄まされてくる。
生物の魔力を動きを感知したり、そういう能力が徐々に身につけられていくというか。
でも夜の山は昼よりも危険だから当然、怪我をしたりもしている。滅茶苦茶父さんたちに怒られた。
怪我をした後は一週間ぐらい夜の山に行くのを禁止されたりもする。
まぁ、自分が怪我した分、自分の白魔法で回復が出来るから良い魔法の練習にはなるからちょっとした怪我なら問題ないって俺は思っている。そんなことを言ったら家族には怒られそうだけど。
そうやって父さんと兄さんに付き合ってもらって、夜の山にも俺は慣れていった。
まだ先のことだろうけれど、一人で夜の山に行ける許可をもらえるようになりたいなと思ってならない。




