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うさ耳くんと、山の中 ④

 夜の山にやってきている。

 父さんと、兄さんと一緒に山へと入る。俺はワクワクしている。

 だってこうして夜の山に折角入れたからな。でもまぁ、こうして興奮ばかりしていて失敗してしまったらだめだから、ちゃんとしないと。

 こうして夜の山に入ると、昼の山と雰囲気が全く違うことが分かる。

 なんだか、昼間よりも静かで……何かが闇夜から出てきそうなそういう雰囲気。

 そういうのに恐怖心よりもぞくぞくした、本能的な興奮がわいている。それは俺が獣人だからなのだろう。俺みたいなうさぎの獣人はともかくとして、特に犬とか狼とかそっち系の獣人だともっと本能的な部分も強いらしい。

 まぁ、父さんや兄さんはそこまで本能が強いとか思ったことはないけれど――そういう性格が顕著な人だと結構乱暴だったりするらしいって聞いたことがある。逆にうさぎはどちらかというと臆病だったりするって。

 俺も転生者じゃなければ、もっと臆病で穏やかな性格をしていたのかもしれない。

 前世の記憶があるからこそ、こう好戦的というか、強くなろうと必死だけど。

「ユーリ、わくわくした顔は可愛いけれど、あんまり奥にはいくなよ」

「分かってる!」

「……目が今にも飛び出しそうだけど」

「流石にいかないよ。ここで飛び出したら今後、夜の山に行くことなんて出来ないから」

 兄さんの言葉にそういえば、ちょっとだけ呆れた顔をされる。

 それにしても夜の山は色んな音が聞こえてきて楽しいなってそういう気持ちでいっぱいである。

 父さんと兄さんと夜の山の中をぶらぶらと歩く。

 俺は結構気配察知能力が鍛えられているのか、あっちに魔物がいるよとか分かるようになっていた。なのでその言葉を口にすれば父さんがその魔物を狩ってくれた。やっぱり狼の獣人って、うさぎの獣人である俺よりもなんだか身体能力が高そうに見える。力強さというか、そういうところが。

 初日だからか、今日は俺は戦わないでほしいって言われてしまったのでなんだか父さんと兄さんに護衛をされながら山に入っている気分である。俺もちゃんと戦力になるのになぁ。

 家族が俺のことを心配してくれていて、大切にしてくれていて――だからこそ俺に危険なことはしてほしくないって思ってくれているのは十分に分かっている。でも、だからといって俺は強くなることをあきらめられない。多分、母さんとかは俺が無茶をして強くなろうとするのをやっぱりあきらめさせたいのだと思う。

 魔力があるから学園にはいかなきゃいけないけれど、それ相応に普通の生活をしてほしいって。

 そういう気持ちも分かるけれど、俺はやっぱりこれからも強くなるために無茶をするんだろうなとは思っている。

 初めての夜の山は、新しい発見でいっぱいだった。昼とは雰囲気が全然違っていて、眠っている魔物を別の魔物が食べているところとかを目撃したり、昼の山では見かけないような夜行性の魔物が徘徊していたり。向こうが襲い掛かってこない限りは、俺たちは観察するだけにとどめた。

 こうやって色んな魔物を観察していると、そういう魔物に対してどういう手立てが有効かとかも分かってくる。もちろん、実際に戦ってみないと本当にその手が有効だったかというのは分からないから実践を積む必要はあるけれど。

「ユーリはああいう恐ろしい魔物を見ても、目を輝かせているな……」

「当たり前だよ。父さん。だって見たことない魔物だよ。ああいう魔物を倒せるようになったらかっこいいじゃん」

 父さんはあえて魔物の恐ろしい姿を俺に見せてくる。

 俺だって恐怖心を感じていないわけではない。自分がどんな魔物にだって勝てるなんて慢心した気持ちもない。驕れば多分死ぬだろうみたいなことは分かっている。だけど恐ろしい姿をした魔物を見ても、魔物の捕食現場を見ても……恐ろしい気持ちよりもあの魔物を倒せたらってそういう気持ちの方が強い。

 俺が驚くような魔物を倒せるようになったら、きっとノアレは俺をかっこいいって思ってくれると思う。ノアレと再会した時に期待外れだっては思われたくない。思っていたよりも成長していないって思われたくない。

 ノアレにもっとかっこよくて、強い俺を見せたい。

 うん、俺ってノアレの事ばかり考えている。

 しばらく夜の山に入った時には、危険な光景ばかり見せられたけれど俺は相変わらずその調子で、俺の心が折れないと父さんも兄さんもよくわかったらしい。

 何度目かの時に、ようやく俺も戦わせてもらえるようになって魔物を狩ったりした。やはり夜行性の魔物って何度か戦ってみないと戦いにくい。暗闇でも周りが良く見える魔物だったり、別の器官を使って周りを認識している魔物だったり――幾ら俺が隠れて近づいても気づかれたりするのだ。ああいうのをどうにか出来るようにならないと!!

 そう思った俺は、父さんと兄さんと夜の山に入った時に、ずっとその対策を練り続けた。

 

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