うさ耳くんと、山の中 ③
「夜の山に行きたい」
「ユーリ、流石にそれは危険よ」
俺は夜の山に行きたいというのを、母さんに告げて反対されていた。でも俺は夜の山でもっと強くなるための訓練をしたかった。
……これでこっそり夜の山に行くという選択は一番ない。だってそれはばれてしまえば昼間に一人で山の浅い所に行くこともダメだって言われるようになるかもしれないから。俺はまだ子供だから反対される理由は十分わかる。でもそれでも俺は強くなりたい。
強くなるために、ノアレに次に会った日のためにも夜の森には入らないと。
野営とかの練習もしたいし。そういうのが出来るように訓練したい。
村の狩りも、夜通しでやることはほぼないし。
そもそもこの村って小さい村だから常駐の冒険者ってのも特にいるわけでもないし。うん、夜に野営をするにしても……あれかなぁ、父さんとかに頼み込んで一緒にやってもらうとかになっちゃうか? いきなり一人で野営はだめな気はする。
一人で夜に少し山に入るのを許可されたら次は野営に入りたい。
……どうやったら母さんたちを説得できるだろうか? 母さんたちは俺に対して結構過保護なのだ。俺が小さなうさぎの獣人だからというのもあるだろうけれど、俺は大丈夫だと示せたらなぁって思う。
でも俺も自分が他の獣人だったら、うさぎの獣人がそんなことを言っていたら心配にはなるかもしれない。俺が弱者として見られる立場だからこそ、同じような立場で強くなりたい子とかいたら一緒に訓練できそうだななどと思う。
昼の山での狩りは結構出来るようになっている。でもやっぱり夜だよなぁ。
「うーん」
「……ユーリ、耳がぺたんこになってるぞ」
「夜に山に行きたい。兄さん、どうしたら母さんを説得できると思う?」
「いや、俺も夜は危険だろうし、反対だけど」
「兄さん……ダメ?」
「うっ……そんな顔してもなぁ。ユーリはまだ小さいだろ?」
「小さいとか関係ないよ。十歳になれば俺も学園に入るし、その前に俺は夜の山にも慣れたい」
ノアレに再会する時に夜の森でもぶらぶらできる俺になってたらかっこよくない? 俺だったら夜の山で徘徊出来るようになったらかっこいいってなる。というか、俺はどんな場所でも戦えるようなかっこいい人がいたら兄貴って呼びたい。憧れる!!
兄さんも納得してくれないかなーっと俺はあえて上目遣いで頼んだけれど、ダメだって言われた。
うーん、どうやったら説得できるんだろうか。
夜の山だとやっぱり魔物に襲われやすいところがあるからなぁ。
俺が夜の山に行きたいと言い続けていたらすごく周りが夜の山の危険性を伝えてくる。夜の山だと、気づいたら魔物がよってくることもあると。そして夜行性の梟のような魔物が急にとびかかってくることもあるって。
あとは夜にうろうろしていたら、崖から落ちるとかもあるって。
うん、まぁ、そのくらいは想像が出来ることだよなぁ。俺が夜の山でも五感をふさいで行動しようとしていると知ったら多分、本気で止められそう……なので俺は説得する時に夜の山に行きたいしか今のところ言っていない。
どちらにせよ、昼の山でも五感のどこかをふさいで行動したりはしているからなぁ。目をふさいで行動するなら昼も夜も関係ないし。
ああ、でもあれだよなぁ。目をふさいでいる場合だと気配とか、魔力とかで察する形になるけれどそれが感じられない生物もいたりするんだろうか? うーん、やっぱり誰よりも強くなりたいって思うと色々考えなければならないからな。
夜の山に行きたい俺は、母さんたちに賄賂……というか、説得するための要素を増やすことにした。
「母さん、これあげる」
「母さん、これ、俺が狩ったんだ」
そういいながら色んなものを渡したり、
「父さん、これ、終わった」
「父さん、これ」
父さんに対して手伝いをしたり、
「兄さん、俺これだけ出来るんだぞ」
「兄さん、ほら、見て」
兄さんに対しては俺がこれだけ出来るんだぞというのを見せつけたり……。
というか、俺が毎日毎日……夜の山に行きたい。俺にはそれでも問題ない力があるんだ。そして少しずつ段階を踏んでやるから、お願いしますと言い続けた。
俺も中々あきらめが悪い方だなとは思う。
でも俺は自分がやりたいことはあきらめたくない。
「お願い!! 夜の山に行かせて」
そうやって言い続けた結果、俺はようやく夜の山に足を踏み入れられるようになった。
ただし……最初は兄さんや父さんを連れていけと言われた。そこで俺が何かしら失敗してしまったら、そのまま夜の山への出入りを禁止されることだろう。ちゃんとしないと。そして一人で夜の山に行く許可を正式にもぎ取らないと!
だって一人じゃないと、出来ないことも結構あるし。
俺の我がままでそこそこ危険な夜の山に行くわけだから、父さんたちが危険な目に合わないようにもしないと!




