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うさ耳くんと、続く別れ ③

 ゲルトルートさんのお別れパーティーの準備を進めている。

 少しだけ泣きそうにもなるけれど、俺はゲルトルートさんを、ちゃんと送り出したいから。

 旅をしているゲルトルートさんがこの村のことを、忘れないように、いつか思い出してくれるように。でも何か荷物になるものをあげるのはどうかと思うので、魔物の素材から作ったプレゼントは実用性のあり、あんまり荷物にならないような小さめの小物入りにした。

 パーティーの準備を皆で進めて行って、パーティーの日がやってきた。

 パーティーの日は喜ばしいことに、天気が良かった。こんなに小さな村だと村人全員で集まれるような場所なんて室内ではそんなにないから晴れて良かったと思った。

 俺はゲルトルートさんの気を引くために森に連れ出していた。森に連れ出している間に、村の方では準備を進めてくれているのだ。

 ゲルトルートさんに魔法を見てもらう。

 俺はなるべくパーティーをしているのを悟られないようにしながら、いつも通りの様子で訓練をし、それをゲルトルートさんに見てもらった。

「ユーリは本当に魔法の使い方が面白いわね」

 そう言って笑うゲルトルートさんがもうすぐいなくなってしまうのだと思うと、俺はやっぱり寂しい気持ちになる。

 うさぎの獣人になってしまったからなのか、俺がただ寂しがり屋なのか、本当に寂しいと思う。

 だけど泣いてしまうのは男らしくないので、そういうのは我慢してゲルトルートさんに魔法を見てもらった。


 それからしばらくして、村へと戻った。



「あら?」

 ゲルトルートさんは、村の様子が違うことが分かったのだろう。不思議そうな声をあげていた。

 そんなゲルトルートさんに向かって、俺は「ゲルトルートさんのお別れ会だよ!」と口にした。大きな声でそう言ったのは寂しさを隠すためだ。

 ゲルトルートさんはその言葉に笑った。

「何かしていると思っていたけれど……お別れ会をわざわざ開こうとしてくれていたのね。嬉しいわ」

 ゲルトルートさんは、やっぱり大人で、沢山旅をし続けていたからこそ出会いと別れに慣れているのかもしれない。俺にとってゲルトルートさんは、魔法を教えてくれたお姉さんで、幼少期の大切な思い出だ。でもゲルトルートさんにとっては、俺のことも、この村のことも、ただしばらく訪れただけの村なんだろうなと思う。

「ユーリ、どうしたの?」

 村の女性達が気合を入れて作ってくれた料理を食べる。これだけ豪勢な料理は中々食べることがないから、美味しいなぁって思う。

 でもそれ以上にゲルトルートさんがいなくなることを実感して寂しかった。

「……」

「寂しいの?」

 ゲルトルートさんに声をかけられても、泣きそうで無言になってしまった。じーっとゲルトルートさんに見つめられて、俺は口を開く。

「……ゲルトルートさん、いっちゃうの、寂しい」

「ふふ、泣いているの? ユーリは本当に可愛いわね」

「……また、会え、る?」

「必ずとは言えないけれど、会おうと思えば会えるわよ。生きている限りね」

 寿命の違いもあるし、必ずとは言えないとゲルトルートさんははっきりという。けれど、会おうと思えば会えるのだと、そう言って笑った。

「俺のこと、忘れないでね」

 泣きながらそう言って、ゲルトルートさんに小物入れを渡した。

 ゲルトルートさんは、優しく笑っていた。凄い子供を見るような微笑ましい目で見て、頭を撫でられる。

「忘れるわけがないわよ。ユーリは私があってきた中でも面白い子だもの。ユーリはあと少ししたら学園に入るのでしょう?」

「……うん」

「その後はどうしたいとかあるの?」

「……この世界で、色んなものみたいなって」

「となると、冒険者とかにでもなるのかしらね。そうなったらきっとユーリの戦い方は有名になるわ。そしたら有名になったユーリは探しやすいと思うの。ユーリが有名になって、私の耳にも入るぐらいになったら、会いにいきやすいわ」

「……うん」

 そっか。

 俺が何かしらの形で有名になれば、俺が何処に居ようとも、俺が出会ってきた人達が俺に会いに来る目印にはなるのだ。

 折角の異世界に転生しているのだから、色んなものを見に行きたい。その夢は今も変わらない。

 この世界で生きている中で、これから沢山出会いと別れを繰り返していくのだろう。

 でもまた会いたい人には、自分からもどんどん会いに行こうってそう思った。

 俺がゲルトルートさんと会話をした後に、兄さんもゲルトルートさんと何か話していた。兄さんも、ゲルトルートさんに今後会いにいったりするのだろう。

 兄さんのゲルトルートさんへの気持ちはずっと続くのだろうか。――ゲルトルートさんへの恋心が続いて、兄さんがゲルトルートさんを射止めたらそれはそれで楽しいのになと思った。

 少し泣いてしまったけれど、そのあとのパーティーはとても楽しかった。騒いで、話して、寂しさを紛らわすように楽しく過ごした。



 ――そしてそんなパーティーから数日後、ゲルトルートさんは村から去っていった。






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