うさ耳くんと、続く別れ ②
ゲルトルートさんがいなくなる。
それももう会うことが出来なくなるかもしれない。
そのことに俺はショックを受けている。
この世界は、前世とは違う。前世のように簡単に人と連絡を取り合ったりすることが出来ない。それを思うとこういう別れもこれからも当然あるのだ。
それに慣れなければならないことも、俺は分かっている。だけど――。
「ユーリ、しょんぼりしているな。ゲルトルートさんがいなくなること、聞いたのか?」
「うん。兄さんも、ショック?」
「……まぁ、でもゲルトルートさんがいつかいなくなることは分かっていたから。悲しいけれど、俺はゲルトルートさんを止める理由はない。でももっと大きくなって俺がそれでもゲルトルートさんを好きな気持ちがあれば、ゲルトルートさんに会いに行く」
兄さんって、転生者とかでもないのに俺よりも精神が大人というか、素直に結構かっこいいと思う。ブラコンなところはどうかと思うけれど、俺のことを大切にしてくれている自慢の兄さんだ。
その兄さんは恋煩いをしているようだ。まあ、ゲルトルートさんと兄さんって年の差があるし、子供の初恋だって割り切られてしまう部分はある意味仕方がないのかもしれない。
そう考えると俺はノアレと年がそんなに離れていなくてよかった!
なんて考えて、自分勝手な考えだなと何とも言えない気持ちにもなった。
「兄さんは、かっこいいよね。見た目もだけど、そうやって言い切るところ、かっこいいと思う」
素直にそう口にしたら、兄さんは照れたように笑った。
こういうかっこいい見た目で、こういう性格だから兄さんってある意味ハーレムみたいなの作ってるんだよなぁ……。
ゲルトルートさんがいなくなってしまうことは、俺にとって悲しいこと。いや、俺だけじゃなくて村の皆にとっても悲しいことだと思う。悲しいし寂しいし、考えると耳がへにゃってなる。でも……これは決して悲しい別れではない。どうしようもない悲劇によっての別れではなく、新しい旅立ちの別れ。
だから、こんな風に凹んでいたら駄目だ。
ゲルトルートさんが、楽しく旅立てるようにしないと。
俺自身は寂しいし、悲しいって思っているけれど、でもずっとここに居てほしいなんて我儘は元々旅人だったゲルトルートさんには言えない。
「兄さん! 俺ゲルトルートさんのお別れ会したい! ゲルトルートさんと次にいつ会えるか分からないし、もう二度と会えないとかあるかもしない。けれど、ゲルトルートさんがいつかこの村にまた来たいって思えるように、そして俺に会いたいって思えるようにしたい。俺はまたゲルトルートさんに会いたいもん!」
そう言い切ったら兄さんは笑った。
ゲルトルートさんのエルフとしての人生は長い。その人生の中で、この村で過ごした時間はきっと一瞬のようだろう。獣人も人間よりは寿命が長いけれど、エルフの方がうんとながいし。俺なんてゲルトルートさんにとって、少し接したことがある獣人の子供程度の認識しか残らないかもしれない。
でも俺にとってゲルトルートさんは魔法について教えてくれた、大事な知り合いなのだ。
ゲルトルートさんがまたこの村にきたいって、俺に会いたいって思ってくれるようなそういうお別れパーティーをしたいって思ったんだ。
それから俺の耳は相変わらずしょんぼりとしていたけれども、村の皆に協力を求めた。
なるべくサプライズで、ゲルトルートさんを驚かせるようなお別れパーティーをしたいから。
俺のそんな言葉に皆協力的だった。ゲルトルートさんはすっかりこの三年でこの村に馴染んでいて、寧ろこの村の住民のように皆から慕われていた。皆、ゲルトルートさんが旅立ってしまうと寂しそうにしていた。
俺も自分で狩った魔物の素材から、プレゼントを作ることにした。兄さんはゲルトルートさんが好きだから、お別れパーティーに気合を入れていた。
いつか、いつになる未来なのか分からないけれど将来的に兄さんがゲルトルートさんを追いかけて、ゲルトルートさんに思いが伝われば面白いのにな。というか、それだったら俺が嬉しい! そんな気持ちで俺は兄さんを応援している。
ゲルトルートさんにもうすぐ村を出ていくことが告げられてからも、ゲルトルートさんと魔法の話は沢山している。ゲルトルートさんはいつも通り過ごしているから、もうしばらくしたらこの村からゲルトルートさんがいなくなるって実感が中々湧かない。だけれどもゲルトルートさんはもうすぐいなくなる。
……やばいな。俺、転生者なのに、肉体に精神が引きずられているのか。悲しくなる。ノアレとしばらく会えないことやゲルトルートさんがいなくなることが重なって俺は悲しい!
なのでこっそり家で一人で泣いたりしてしまう。
うーん、我ながら情けない。でも寂しいものは寂しい。母さんには泣いてたことはばれてた。でも「うさぎの獣人は寂しがり屋が多いのよ」なんて笑われてしまった。




