うさ耳くんと、戦いと、別れと ③
ノアレとこうして模擬戦をしているのは楽しい。
何だろう、ノアレはどんなことを考えているのか俺からは分からない。だけどその表情を見る限り、楽しんでくれていたらって思う。
俺はノアレとの模擬戦は、徐々に強くなっている自分を感じられるし、ノアレと一緒に何かが出来るというだけでも楽しい。――それに俺がノアレより強くなれたらノアレは俺のことを考えてくれると言ってくれていたから模擬戦をしているとノアレと繋がっているような気持ちになる。
だけど、此処で負けてしまったら――次に学園に会った時も、ノアレは俺のことを受け入れてくれなくなるかもしれない。俺のことをノアレに印象付けて、ノアレが俺を好きになってくれたら――ってそればかりだ。
だってノアレはとても可愛くて素敵な存在だから、ノアレはきっとこれから先も色んな人に言い寄られたりするだろう。
俺は大好きなノアレが誰かのものになったりすると悲しいから、嫌だと思う。
うさぎの獣人だからとか、戦闘に向かないからとか――そういうのを言い訳にはしたくない。俺はファンタジー世界に転生したからこそ、ノアレに追いつきたくて、それを抜きにしても強くなりたいと思っている。
だから、俺はノアレにかってみせる。
というか、ノアレとの学園に入学する前の模擬戦で勝てないなんて――かっこよくないし! 俺は可愛いと言われる見た目だけど、かっこいいって言われたい。
そう言う気持ちでノアレからの攻撃を避けていく。
――俺がどんなふうにやればノアレを怯ませられるか。ノアレにどうやったら勝てるか。そのタイミングを計る。
ノアレは俺に攻撃が通らないことに焦りを感じているようだ。その焦りを誘っていったら、俺はどうにか出来る気がする。
今はノアレがどんどん攻撃してきて、俺がそれに対応している図である。俺はあえてそういう行動を誘導している。
――そして、良いタイミングを持てた。
俺はノアレが一瞬隙を作ったタイミングで、俺は耳を突き出した。
ノアレが驚いたように剣を引っ込めようとする。
俺の耳を切ってしまうと思ったのかもしれない。だけど、俺はそのタイミングで耳を剣に向ける。魔力を込めた耳が、木剣をはじいた。
「なっ――」
「隙あり!」
そして木剣は空へと舞う。
俺はそのまま、ノアレの首に木剣をあてる。
息切れがする。だけどまだ油断はしない。
ノアレが木剣をあてられたとしても行動を起こそうとした。だけど、それは俺の足払いで阻止される。ノアレがそのまま身体を倒した。そんなノアレを押さえつける。
そこで、ようやくノアレがようやく口を開く。
「……負けたわ」
悔しそうな声を発して、ノアレが告げる。
ノアレがそこまで認めて、俺はようやくノアレから離れる。
そして長時間模擬戦で動いていたのもあり、思わず地面に大の字になって息を整える。
「やったーー! ノアレに勝てた!」
思わずそんな声をあげる。
ノアレは座り込んだまま、俺のことを見ている。
「……ねぇ、ユーリ、さっきの木剣をはじいたの何よ? 去年もやってたわよね?」
「獣人にとっての弱点は耳だろう。それに俺みたいなうさぎの獣人の耳は、長くて狙いやすいじゃんか。だから俺は耳を武器にすることを決めたんだよ。耳を身体強化をかけられれば木剣だってはじけるってわかったから、もっと鉄とかの剣もはじけるようになりたいな」
寧ろ耳で剣を折れたりしたらかっこよくないか? と男としてはそういう気持ちでいっぱいである。
というか、男のロマンというか、男の夢とか、そういうのがやっぱりあるからなぁ。俺はそういうロマンを叶えていける戦い方が出来た方がきっと楽しいと思う。
ノアレは俺の言葉を聞いて面白そうに笑った。
笑っている笑顔が可愛い。俺はときめいている。
「ユーリは考え方が面白いわ。……可愛い顔して見た目通りではなくて、そういうところが面白いと思うわ」
「だったら、俺のこと考えてくれる!?」
俺がそう問いかければ、ノアレは少し呆れたような目を向けて、だけど笑った。
「そうね……。約束していたもの。私の隣、ユーリでとっててあげる」
「ほんとう!?」
「うん。だからユーリ、他の女に目移りしたら、許さないわよ。私は浮気とかを許せないから、ユーリが他に目移りするなら私は嫌だから」
ノアレがそう言いながら俺のことを見る。俺はその真っ直ぐな目が俺を見つめているのに俺はドキドキしてしまう。
俺も元日本人で、一夫一妻制だったしそういうのは全然問題がない。というか浮気なんてしたくないし!
「もちろん! 俺ずっと、ノアレ一筋でいるから、ノアレと結婚したい!!」
「本当にユーリは……ぶれないわね。……考えてあげる。私は先に学園に入学するからだから追いついてきなさい。……そ、そしたらそういうのも考えてあげるから」
「やった! ノアレ、大好き!!」
「ちょ、ちょっと、抱き着くのは許してないわ!」
「あ、ご、ごめん」
立ち上がってノアレに抱き着けば、ノアレに注意された。嫌われてしまうかとしゅんとして離れたら、ノアレがじっと俺を見つめる。
そしてノアレが俺に急に顔を近づける。そして頬にキスをされた。
「このくらいなら許してあげる……。次は、学園でね」
「ノアレ、大好き!!」
ノアレから頬にキスされたことに俺は感激して思わずそう叫んだ。
――そしてしばらく村にいたノアレは、その後去っていった。
次にノアレに会うのは、学園だ。




