うさ耳くんと、戦いと、別れと ②
俺はノアレが引っ越すことになって、この村に来るのが難しいという話を聞いて、俺はショックを受けてしまった。
ノアレがじっと俺のことを見ている。
俺は、なんとか声を絞り出す。
「――ノアレ、いなくなっちゃうの?」
「……ええ。此処に来るのは難しくなるわ」
「そっか。じゃあ、次に会えるのは学園に入学した時になる?」
「うん」
ノアレとの別れは永遠ではない。とはいえ、ノアレと今のように会えなくなると思うと俺は悲しくなった。
でも悲しいけれども、ノアレともう二度と会えないわけではない。
「ユーリ、案外ショック受けてないわね」
「受けてるよ。ショックは。ノアレに会えないのは悲しいし、寂しい。ノアレに好きな人が出来たらどうしようとか、俺はそういうことばかり考えちゃってる」
「本当にユーリは変わっているわよね」
「俺はノアレが大好きなだけだよ。ノアレ、模擬戦しようよ」
「こんな時でもそれなの?」
「うん。だって俺がノアレに勝てたらノアレは俺の事を考えてくれるんでしょ。俺はノアレの心に俺って存在を残したい」
ノアレが大好きだから、ノアレの心に俺を刻めたらって思う。というか、学園に入学するまでノアレと模擬戦なんて出来ないのだ。
ならば――今回、俺はノアレに忘れられないようにしなきゃいけない。
ノアレは俺の言葉に笑った。
「ユーリは本当に相変わらずね。でもそういうところが私たちらしいわ。いいわ、戦ってあげる」
ノアレはそう言って不敵に笑った。
俺がノアレに一目惚れして、ノアレと一緒に居たいと思って、そこから始まった俺とノアレの模擬戦。ノアレが自分に勝てたら考えてもいいとそう言ってくれたから。俺はずっとそのことを目標に鍛錬し続けた。もちろん、転生したからには強くなりたいって思いも強いけれど、一番はノアレに振り向いてほしいからだった。
ノアレが学園に入学するまでずっとそうやってノアレと模擬戦が出来ると思っていた。けれど、思いがけない別れがくる。
正直言って俺は結構動揺している。毎年のように会えていた好きな女の子と会えなくなることが寂しい。けれどその別れは永遠ではなくて、ノアレだって当たり前みたいに学園で俺と会おうとしてくれている。
「ノアレ、俺はノアレの事が好きだよ。だから、ノアレ、俺は全力で戦うよ」
「ええ。私も、しばらく会えないからって手加減はしないわ」
ノアレは俺に手加減なんてしない。全力でいつも向かってきて、それでいて強気で、そういうところも好きだと思う。
全力を出したノアレに勝ちたい。
ノアレに手加減なんてされたくない。手加減されて好きな子に勝てたなんてかっこ悪いから。
俺とノアレの模擬戦の見届け人はゲルトルートさんである。ゲルトルートさんは、しばらく会えなくなるというのに、模擬戦をやろうとしている俺たちに「子供ねぇ。でも二人らしいわ」と笑いながら見届け人をしてくれることになった。
ノアレと俺は向かいあう。
互いに木剣を手にした状態から、模擬戦は始まった。
先に動いたのは俺である。俺は素早く跳躍して、ノアレの元へと向かう。
ノアレが少し驚いているのは、俺が思ったよりも素早く動いたからだろう。俺は自分のスピードをあげるためにずっと訓練し続けた。うさぎの獣人は元々身軽で、他の獣人よりも戦闘力がない代わりにすばしっこい。それを強化し続けた。
だけど、ノアレもそうなのだろう。
ノアレは俺のスピードについてこれる。流石ノアレだと思う。強くなることに妥協なんかしなくて、その強さが俺にとって好ましい。
ノアレは、ぶつぶつと何かを言っている。おそらく魔法の詠唱だ。
だけど小さな声で、その詠唱は俺には聞こえてこない。次の瞬間現れたのは、火と風。ノアレは赤と黄の属性を持っていたから、両方使っているようだ。火は風を帯びて、勢いを増す。燃え盛る炎が、俺へと向かってくる。
いつの間にかノアレはこんなに魔法が上達したのかと驚いた。ゲルトルートさんが慌てているのは、ノアレが思ったよりも魔法を成長させているからだろうか。
俺はその炎を見ても、流石ノアレだとしか思えなかった。
ノアレの魔法は確かに勢いは凄いけれど、避けられないほどではない。それに自分の無属性の魔力をぶつけて、相殺させることも出来るぐらいだった。
相殺されたことにノアレは驚いていた。
ノアレを驚かせられて俺は嬉しい。
ノアレが木剣を振りかざす。俺はそれを木剣で受け止める。ノアレは俺への攻撃を止めない。魔法と剣を行使して襲い掛かるノアレを、俺はいなしていく。
毎日毎日訓練をしていたからこそ、ノアレの攻撃をどうにかできるのだと思う。
「やるわね、ユーリ」
「俺はノアレに勝つためにずっと訓練し続けたから」
「でも後ろにも目があるみたいだわ」
「五感に頼りすぎない方がいいんだよ」
後ろから来ようとも、感覚で分かる。いつも五感の一つを塞いで訓練したりしていたから、なんとなく気配で分かるのだ。




