うさ耳くんと、耳の強化 3
俺は狩りに来ていた。
兄さんたちと一緒に行く狩りは、いつも俺のことを見張っていたりもする。というもの俺が「耳で攻撃したいな」などと呟いたのを聞かれていたからである。
何も俺も自分の命が危険に陥るほどの無茶はしないのに。何て言っても俺が普段から無茶ばかりしているからか、一切兄さんたちは信じてくれなかった。なんて悲しいことだろうか。……ゲルトルートさんにも、日ごろの行いだと言われたし。
俺はちゃんとしているんだけどなぁ。
なんて思いながらもそういう機会を狙ってはいた。ただ死にたくはないから、慎重にだけど。
「ユーリ、お願いだから無茶はしないでくれよ? いつもユーリが良く分からないことをやっているのはまだ村の中だから許されるが、それでも外でそんな無茶をしたり死んだりするからな」
兄さんは心配性である。
本当に中々のブラコン気味というか、その気持ちは嬉しいものだけれども、俺も大分大きくなったし、もう少し俺がそこまで死にかけるような無茶はしないと信用してほしい。
それにしても狩りというものは、少しずつ成果を出せると嬉しい。俺も一人前の狩人にこれからなっていけるのだろうか。冒険者として将来旅をするためにも、こういう狩りや解体の技術はとても重要だ。
流石に狩りの最中に耳で魔物に攻撃をすることは難しかった。なので、狩りの後に獲物の一部をもらって、それに耳で攻撃してどうなるかを試してみることにした。
……相変わらず周りには「何をやっているんだ……?」という訝し気な目で見られてしまったけどな! でも確かに客観的に考えてみると、死んでいる魔物に向かって耳を振り下ろす小さなうさぎの獣人って中々頭のおかしい光景だと思う。俺もやっているのが自分ではなければ慌てて止めたかもしれない。
魔物の死体に向かって耳を振り下ろしても、中々上手く切れない。……やはりまだまだ先頭に使えるほど、耳を強化出来ているわけではないのだ。何度も何度も試してようやく切れたと思った時には、べったりと耳にその魔物の血がへばりついていて……通りかかった村人に悲鳴をあげられた。
耳で攻撃が出来るようになって、弱点を武器に出来るのは良いことだけれど、耳に血が付くって言うのは何だか嫌だなぁ。そもそも血って病原菌などが入っている可能性もあるし。こういう戦い方をしているからといって病気にはなりたくない。
そういうわけで血などがつかなくていいように、耳をカバーするイメージで魔力を纏ってみるというのを考えてみる。
実際に出来るかどうかはともかくとして、やれるだけやってみようと思う。
やる前から諦めるのは正直かっこ悪いし、俺はやるだけのことをやって、ちゃんとノアレに勝って、ノアレをお嫁さんにするのだ。それでいて、冒険者として活躍して、将来的には孫とかに囲まれて大往生したい! って思っているのである。
そのためにもやはり耳の強化はとても必要なことだ。
「ゲルトルートさん、見て! 一応ちょっとは魔物の皮膚切れたよ!」
「血がついた状況で自信満々に報告されると中々ホラーね……。ユーリは可愛い顔していて、本当にギャップが激しいわよね。ノアレちゃんもその姿を見たら引いちゃうんじゃない?」
「え。それはやだ。でも俺のノアレなら、ちゃんと俺が努力して結果を出したなら、ノアレは俺のことを受け入れてくれるはず!」
ノアレに勝つことを目標に強くなろうとしているのに、ノアレに引かれてしまう……と考えてしまうと悲しい気持ちになる。
でも俺が目指している戦い方って確かに人によっては引くようなものかもしれない。俺は大切な人以外には引かれても正直いいかなと思っている。俺って見た目は可愛い方で、なめられやすいから将来的に冒険者をやるのならば、引かれるぐらいの方が丁度良い気がするし。
ああ、でもノアレに勝つことが出来たらちゃんと俺の手のうちはノアレに話しておくのもいい気がする。ノアレは……俺が耳を使って無茶ぶりする予定なのを聞いたらどんな風な態度をするだろうか。
「まぁ、そうね。ノアレちゃんも中々面白い子だものね。ユーリ、これからも貴方がそう言う戦い方をするなら色々言う人は多いと思うわ。戦闘に向かないうさぎの獣人がそんな無茶なことをする必要はないってそんなことを言う人だっているかもしれない。でもユーリが本当にそういう戦い方をして生きていくことを決めているならば、誰もを黙らせるぐらいに強くなればいいと思うわ」
ゲルトルートさんは、血のついた耳に視線を向けながらそんなことを言う。
――結局のところ、誰もを黙らせるほど強くなれればどんな生き方だって誰にも文句は言わないのだ。
文句を言ってくる相手よりも弱ければ、その志は途中でおられてしまう。でもそれを押し通せば、誰もうさぎの獣人が戦闘に向かないなんて言わなくなるかもしれない。
「――うん。俺はそれを目指すよ。ノアレの隣で、ノアレと一緒にたたかいたいから」
――そのために、俺は耳の強化を続けるのである。




