うさ耳くんと、耳の強化 2
痛みにのちうたまう事は多々ある。
大きな声をあげて耳を抑える俺を村の皆が痛ましいものを見るような、おかしなものを見るような目で見ていることを知っている。まだ俺はおかしなことをする子供という認識はされていても、村の人たちに嫌がられているわけではない。……本当にこの村の人たちっていい人ばかりだと思う。俺はこの村じゃなかったらもっと生きにくかったかもしれない。
「ユーリ、どう? 進んでる?」
「うん!!」
ゲルトルートさんに問いかけられて、俺は自信満々に頷いた。俺は少しずつ耳の強化が上手くいっているのを肌身に感じていた。
なんだろう、まだまだ実戦で使えるほどではない。俺も戦闘中に耳の強化を進めていくのは難しい気がする。それをどうにかしなければならない。結局練習では出来ても実際に戦闘で使えないのならば意味がないから。
それに耳の強化が出来るようになったとしても加減はちゃんとしないと。耳を少し傾けただけで、誰かが傷つくとかは嫌だし。そう考えると色々と試行錯誤する必要がある。あれだよなぁ、耳を武器にしたいというのは事実なのだけれども、鞘みたいなのを作っておくとかも重要だよな。耳は獣人にとって特別な部分だから触る人は早々いないだろうけど……俺もノアレとかには触れられたいし、そういう制限はきっといる。
そうするためにどのようにしたらいいだろうか。
俺の理想をつかみ取って、それでいて俺がノアレの心をつかむためにはどういったことが必要だろうか。
「ねぇ、ゲルトルートさん、俺さ、少しずつ耳の強化も進んできていて……、なんとかなりそうかなってはなってると思う。まだまだ実戦で使うためにはどうにかしなきゃいけないことが沢山あって……」
「それはそうでしょうね。ユーリがやろうとしていることは難しいもの。それに少しでも間違えば耳が聞こえなくなったりする恐れもあるからそういうことを人はしようとしないわ。ユーリはその点、他の人とは違った考え方をしていて……、そういう人が諦めそうなことを諦めない所が凄いと思うわ」
「そうかなぁ。誰だってやろうと思えばできると思うけど、特に魔法が使えればなんだって目指せると思う」
俺も魔法を使える才能をなかったらとっくにそういう夢が持てなかったかもしれない。
それに前世の記憶なんてものがなければこんなことが出来るかもしれないなんて想像さえもしなかったかもしれない。
今、俺が夢をあきらめきれずにいるのは、そういう偶然が重なった結果である。
「それでさ、ゲルトルートさん。この長い耳を武器に出来そうなのは分かったんだけどさ、ちゃんと制限はしたいんだよね。何でもなんでも傷つけないように」
「それはまた難しいわね。調整するのにまた魔力を使うかもしれないわ。それぐらいなら耳の強化をしない方が手っ取り早いと私は思ってしまうのだけど……」
「そうかもだけど! それでも俺は耳で戦えたらかっこいいって思うから!」
「ふふ、かっこいいと思うからとそういう諦めないっていうのはユーリは見た目の割には男らしいわよね。いいわ。一緒に考えましょう。ところで今は何処まで出来たの!」
「えっとね、このくらい」
俺はそう言って耳に強化魔法をかけて、思いっきり近くにあった木に耳で攻撃してみた。理想は木が着れることなのだが、流石にまだまだそこまではいかない。ただ硬いものとぶつかった音はした。
ゲルトルートさんがその音に驚いた顔をしていた。
結構硬く出来ているのだ。ちょっとした鈍器ぐらいの硬さはあるようである。これで殴ったら殴られた人はいたがるだろう。
「……それだけ硬くは出来たのね。でもこれって強化を取ったら反動で大変じゃない? それにそれだけ触り心地が良い耳がカチカチっていうのは……ちょっとどうかと思うんだけど」
「まぁ、慣れるまでは色々とアレかもしれないし、まだ気を抜くとこういう風に強化はできないけど、どうにかなるよ。その辺はもふもふを保ったままにする予定」
「どうやって?」
「それを今から考えるから!」
そう言えば、ゲルトルートさんは相変わらずに面白そうに笑って俺を見るのである。
まずはそうだな。魔物退治などで耳で相手を攻撃できるかも試したい。でもそれは兄さんたちにも止められそうだし、段階を踏んでになるけど。強化が上手くいってなかったら大変なことになるし。
というかあれだよな。あとは回復系の魔法をもっと得意になれるようにしておけば、耳が最悪ちょん切れてもどうにかなる気がする。痛いのは嫌だから基本そういう風にはならないようにしたいけど。
そういうことを考えていたらゲルトルートさんに「なにか危ないことを考えているわけではないわよね? ちゃんと相談してね。ユーリは予想外のことを思い浮かべて実行したりよくするから」なんて言われてしまった。
……前世の記憶があるからなのか、俺も中々前世よりも行動力がある気がするし、身体に引っ張られているからそのあたりはもっと考えないとと俺自身も思うのであった。




