うさ耳くんと、耳の強化 1
ジュリエルとの手紙のやり取りは続いている。ジュリエルは飽きて、手紙のやり取りも亡くなるのではないかと思っていたが、ジュリエルは案外、マメらしい。
ちなみに好きな女の子――ノアレのことを書いたりもしている。
俺もジュリエルとのやり取りで文を書くのが得意になってきた。これでノアレにも手紙を書こう。うん、恋文を書こう。たまにはそういうのもいいかもしれない。ノアレは全然連れないけれど、俺はノエルに勝つだけではなく、ノアレが俺のことを好きでいてほしい。だからこそノアレの心を射止めるための努力は欠かさない。
あとやはり俺は耳の強化を頑張らなければならないのだ。
この前の戦いのときに、俺は耳を向けてノアレの隙をつく事が出来た。しかし、まだまだ耳を強化することが上手くいっていない。もし、上手く出来れば一度ぐらいならノアレに勝てるかもしれない。いや、当然何度でもノアレに勝てるぐらい強くなる必要があるけれど。
でもまずは一度だ。
年の差なんて関係ない。
ノアレに俺は勝たなければならない。
「本当にユーリは一生懸命ね。まだ六歳なのに、これだけ強くなろうとするなんて」
「当然だよ。ゲルトルートさん。俺はノアレと結婚したいんだもん」
ノアレと結婚したい。俺の望みはそれだけである。だからこそ、そのためならなんだってやる。
「……普通なら子供なら飽きて他の事をしそうだけど。ユーリは真面目なのよね」
「真面目というか、強くなるのは楽しいし」
というか俺が飽きもせずに鍛錬をしているのは転生者だからというのもあるだろう。俺が転生者でなければこんなにも真面目に取り組めなかっただろう。
前世の記憶があるからこそ、俺は俺であり、ノアレに恋をした。うん、そう考えると記憶が残っていて良かったかもしれない。
下手に大きくなってから記憶を思い出すと、過去に色々やらかしていたら大変だし……。
それにしても耳への強化って大変なんだよなぁ。なんとなくコツは掴んできている気がするんだけど、少し失敗して耳が痛くなった時は困ったけどな。
その段階でゲルトルートさんに「もうやめた方がいいんじゃない?」と言われてしまった。
まぁ、ちょっと失敗しただけでもこれだけ痛いっていうのは問題だよなぁ……。耳って五感の一つだから、駄目になったら最悪だし。いや、でも耳が使えなくても他の五感でどうにか周りを見られるようにしないと。大分それも慣れてきたけれど、まだまだだ。
それにしても目を閉じても、位置関係は大体わかるんだよな。鼻と、後やっぱり魔力を周りに廻らせれば、分かりやすい。魔力って万能感があるよなぁ。いや、もちろん、扱い方は難しいけどな。
結構魔力を常に周りに廻らせているのはありかもしれない。
――周りのことをもっとわかるようになること。生きている人を把握するのは分かりやすい。でも無機物だって、もっと把握できるようにならないと。色々間隔を研ぎ澄ませたら分かる事って結構多いんだよなぁ。
瞑想して間隔を研ぎ澄ませたり――って何だか前世の修行僧か何かみたいなんだが、俺。
「ユーリ、また変なことに力を入れているな。ユーリが変なことをしているのはいつものことだが」
「……変なことじゃないよ。兄さん」
兄さんはちょくちょく俺のことを見に来る。
その時に大抵俺は修行をしている。もちろん、狩りをしたり家の手伝いはしているが、それ以外はずっと俺は修行していた。兄さんは俺よりも年が上だから、余計に家の手伝いをしている。
あと俺が学園に入学するため、母さんも父さんも修行をするのは認めてくれている。この学園から有名人が出たらっていう村長の思惑もあるらしい。まぁ、最も俺がやっている修行は周りにとって訳の分からない修行らしく、俺が有名になるとは思っていないみたいだけど。
でもこれで俺が強くなったら、なんかいいな。有名になった後に村長とかに「あの子は訳の分からない修行ばかりしていた」みたいに語られたりするんだろうか?
それにしても前世で読んだ転生者というのは、昔から神童と言われていたり、モテモテだったりするもんだったんだけどなぁ。俺の評価、訳の分からない子供だよ!
でもまぁ、その方が俺らしいか。
そんなことを思いながら俺はせっせと修行に励む。
それにしても魔力があると分かって一年と半年ほど。俺も大分、魔力の扱いに慣れてきたと言えるだろう。でも賢者といえるぐらいに魔力の扱いに長けている人はもっとすごいんだろうなぁ。
いつか、そう言われるぐらい魔力の扱いが得意になって、それでいて剣の腕も良ければ俺は有名になれるだろうか。
――強くならないと。
ただそれだけを俺は考えている。
「いったぁあああ!!」
そして俺は何度も繰り返し、何度か激痛を感じながら、耳への強化を進めていく。
痛みにの立ち回る俺を村人たちは引いたように見ていたが、そんなのは知らない。俺は俺のやりたいようにやるのである。
そしてそういう努力を重ねて、少しずつそれは実っていった。




