うさ耳くんと、手紙
「ユーリ、お前に手紙だ」
街に出かけてからしばらくたったある日、村に来ている商人であるガガゼさんからそんなことを言われた。
俺の住んでいる村は小さな村なので、手紙などもガガゼさんたち経由でしか届かない。前世では郵便局の職員とかが色んな所に届けていたが、そういうものである。ちなみに手紙を出して届くまでの時間もながい。
割とこの世界は聞いている限り一度出会った人と次に会える確率も少ないらしい。伝達技術も発達していないのでそういうものだろう。
それはさておき、手紙である。
この世界に生まれ落ちて俺宛ての手紙何てほぼもらったことがなかった。識字率の問題もあるが、そもそもこの村に手紙などほとんど来ない。
誰からの手紙なのかさっぱり分からなかった。
それで手紙の裏面を見て、「あ」と口にする。
それはジュリエルからの手紙だった。
正直言って村の場所は教えたし、手紙を書いたら返事を送るなどと俺は言っていたものの、本気で手紙がくるとは思っていなかった。
ジュリエルもあの時は俺になついていたが、あの時だけで、それ以上の交流はないのではないか――と思っていたのだ。それにジュリエルが文字を書けるかも分からなかったし。
「恋文か?」
「いや、前に街に行った時に迷子の子供の親を探したんです。その子供からの手紙ですね」
ガガゼさんにからかうように言われたが、恋文なわけがない。それに俺はノアレのことを心に決めた相手と思っているので恋文をもらったとしてもどちらかというと困るころだろう。もちろん、俺自身を好いてくれているとかなら嬉しい気持ちもあるだろうが、それでもそれだけだろうしな。
ジュリエルの手紙には簡潔に、ありがとうという言葉と、また会いたい、返事を欲しいとそれだけが書かれていた。時々つづりが間違えていて、子供が一生懸命書いたのだとよく分かる手紙だった。ちなみにもう一枚、ジュリエルのお母さんからの手紙も入っていた。
――良かったらジュリエルと文通を続けてほしい。とのことだった。
断る理由もないし、手紙を書くことで俺の文章能力も上がるのではないか――という思いもあり、俺はその手紙に返事を書く事にした。それに手紙をくれるなら返事ぐらいするって言っちゃったしな。
そんなわけで俺は手紙の返事を書くことにした。
ただし俺も文章を書きなれているわけでもないので、簡単な言葉で、簡潔な返事になったけどな。
結局、これだけ小さな村だと手紙用の紙も少ないしなぁ。
兄さんに手紙を書いていたら「何をしているんだ?」と聞かれたりもした。俺が街で母親探しをした子供に書くといったら自分も書くといってなぜか兄さんも一言添えていたけどな。
兄さんはこういうことを続けてモテモテなのかもしれない。兄さんは結構誰にでも優しいからなと思う。……俺は正直熱中していることがあれば周りなんてそっちのけだったりする。正直修行の方が結構大事で、他に趣をそこまでおいていないのだ。
俺にとってノアレに追いつく事が一番大事なことというか――、そんな感じである。
ジュリエルからの返事は結構、すぐにかえってきた。それにしても手紙をこれだけぽんぽん出してくるってジュリエルの家は結構裕福だったりするのだろうか? 本当に俺の村ぐらいの田舎だと、手紙を出す習慣とかもないしな。
これが村住まいと街住まいの差なのだろうか……。
そういえば、前世で読んだ転生物の作品とかだと、内政改革とか色々していたけれどぶっちゃけ俺はそういう知識が皆無なので、そういうことは一切できていない。……もしかしたら俺以外にこの世界に転生者がいたっら、そっちはそういう改革をしていたりするとかあるのだろうか?
いつかこの世界を旅する中でそういうのを見つけられたら楽しいかもしれないと思った。
ジュリエルからの手紙の返事は、修行や狩り、あと家の手伝いの合間に書く気力がある時だけ書いた。正直間隔をあけた時とかは、二通目の手紙がきたりもしていた。
流石にその時は返事をすぐに書いた。
なんだかジュリエルはマメな性格をしているらしい。ジュリエルの手紙には、ジュリエルの生活を垣間見ることができた。この獣人ばかりの村とは違う生活の事を知ることは中々楽しいものだった。
「ユーリ、最近、手紙楽しそうだな」
「うん。兄さん、結構色々知れるんだ」
兄さんの言葉に俺はそう答えた。
もちろん、ジュリエルはまだ幼いからそこまで詳しくは書かれていない。詳細を知るには至らない。けれども、その暮らしぶりを知れるのはちょっと面白かった。
転生してからの俺の世界はやっぱりまだまだ狭いのだ。
俺の暮らしているこの村がほとんどすべてで、もう少し大きくなったら学園に通うことにはなっているけれど、そういう外の想像はあまり出来ていない。
――きっと、異世界であるからこそ、この世界はもっと俺にとって摩訶不思議なことで溢れているのだろうな。
それをジュリエルからの手紙でより一層実感するのだった。




