うさ耳くんと、二度目の街 5
ジュリエルを母親の元へと送り届けた後、俺は一人でまた街を見て回った。
ジュリエルを探している間に、街の人々と仲良くなれた。俺がジュリエルを連れて回っていたのは結構この街で広まっているようだ。
「うさぎの坊主、これいるか?」
「うさぎ君、女の子のお母さん見つかって良かったね」
街の人々がそうやって声をかけてきてくれて、少しだけ恥ずかしかったけれど嬉しかった。それにしてもこうして知らない街で知っている人が増えるのって嬉しいものだよな。
俺はこの世界で限られた世界しか俺は知らない。前に街を訪れた時は父さんに連れられて一人ではぶらぶらしてこなかったしな。だからこそこうして俺に俺だけの知り合いが増えていくのはなんだか俺の世界が広がっていく感覚で、とても嬉しいなと思った。
俺の世界は、これからもっともっと広がっていくのだろうか。うん、やっぱり俺は村で大人しくいるというよりも、もっとたくさんの世界に冒険しに行きたいな。その隣にノアレがいたら、きっと幸せだろうな。
そんな気持ちで一杯になる。
それにしてもこの街は結構優しい人が多いのかもしれない。きょろきょろと少し視線を横に向けるだけでも、色んな人種がいるし。俺はこの世界の事をそこまで知っているわけではないけれど、それでもこの世界がそこまで優しいわけではないことも知っている。
俺の今の所の世界は優しいけれども、それでもこの世界全てが優しいわけでは決してないから。
だからこそ、こういう優しい世界を大切にしたいなぁとは思う。
それにしても一人で街を回るのは楽しいけれど、隣にノアレが居たらと思う。手を繋いで街でデートしている人を見たら余計にこう、グギギギみたいな気分になるっていうか、俺は前世でもそんなリア充ではなかったしなぁ。
まぁ、この世界ではノアレさえいればいいとそんなことしか俺は考えていないけれど。
色々と将来のためになりそうなものを購入して、村の大人の待ち合わせ場所へと戻る。
そこにいた兄さんは俺を見て笑みを溢す。俺が一人で街を見て回っていたことが心配だったようで、思いっきり心配されていたのだ。本当に兄さんはブラコン気味で俺のことをいつも心配しているのだ。
俺としてみても心配されるのは悪い気はしないけれど、俺もどんどん大きくなっているのだから、もう少しそういうのはやめてほしいなと思う
「ユーリ、女の子と一緒にいたんだろう?」
「……兄さんまで知っているのか?」
「ああ。結構噂になっていたからな。迷子の子供を助けるなんて流石俺の弟だ」
なんて言われて頭を撫でまわされる。
……兄さんはすくすく育っていて、俺よりも背が大分高い。年齢差があるにしても、兄さんは俺ぐらいの時にはもう少し男らしかったと思うんだよな。俺は全然だ。やっぱり俺はうさぎの獣人である母さんに似てしまったのだ。
兄さんみたいにかっこよくなれたらノアレだって――などとないものねだりをしそうになって、首を振る。そんなことを考えても仕方がない。
そもそもよく考えてみれば俺が狼の獣人であったのならば、今のように強くなるための努力をそこまでしなかったかもしれない。うさぎの獣人として生まれたからこそ今の俺があるのだから、自分の持っているものでなんとか頑張っていかなければ……!!
「兄さん、俺、この街で結構知り合いが出来たんだ。一人でぶらぶらしたからこそなんだ」
「ああ」
「……俺もっとこうして知り合いを増やして、自分の世界を広げていきたいと思ったよ。学園に行った先でも、強くなることは重要だけど、人と交流をもっと持ちたいなって」
「それはいいことだな。ユーリならきっと出来るさ。でもどれだけ新しい人と出会っても俺のことは忘れないでくれよ。そんなことになったら俺は悲しい……」
なんだか俺に忘れられることを思い浮かべてずーんとした様子を見てる兄さんに笑ってしまった。
見た目はかっこいいのに、俺のことを考えてそんな様子を見せる兄さんは、俺にとっても大事な兄さんである。
世界が広がればそれだけ今まで大事にしていた世界を蔑ろにしたりするというのは、前世で読んだ物語の中でもそれなりにあった。俺は世界を見て回りたいとは思っているけれど、冒険をしていたとしても家族には時折会いに来たいし、手紙だって書きたいと思うのだ。——この気持ちを大人になっても忘れないようにしよう。
そんな風にも思った。
まぁ、俺は転生者だから精神的にはもう大人だから大人になったら何て言い方はちょっと変かもしれないが。
「俺が兄さんを忘れるわけないじゃん」
「ユーリ!!」
なんだかまだ先の話なのに、俺の言葉に兄さんは俺を抱きしめてきた。
それから皆で村へと戻った。兄さんはこういう話をしたからか、俺により一層構ってくるようになった。
街での経験は俺の人生にとって良い経験だった。またこうして新たな出会いをどんどん増やせたら嬉しいとそう思ってならない。




