うさ耳くんと、冒険者 2
今日はザッドクさんたちに稽古をつけてもらっている。
俺がうさぎの獣人だから、ザッドクさんたちもそんな風に強くなろうとしなくていいのではないかと言っていたけれど、俺はやっぱり強くなりたいのだ。
ザッドクさんたちはそんな俺の熱意にザッドクさんたちは、俺に剣を教えてくれることになった。剣だけではなく、他の武器の扱いも少し教えてくれたりもした。何故ならば冒険者というのはいつでも万全の体制で戦えるような職業ではないからだ。
剣がメインだけれども、何でも武器に出来るぐらいの気概があった方がいいらしい。だからチェッラーさんには頭がおかしいのではないかと言われた耳を武器にしてしまおうという作戦には、ザッドクさんは「いいな」と賛同してくれた。
こんな風に賛同してくれる人はいなかったから、俺はそれが嬉しかった。
「ユーリ、踏み込みが悪いぞ」
「はい!」
ザッドクさんは、普段はとても豪快で優しい人なのだけれども、俺を鍛える時のザッドクさんは厳しかった。殺気立った目を向けてきて、俺に殺気になれさせようとしてくれていた。
子供相手にそんなことをするなんて大人げないなんて、ザッドクさんは言われていたけれども、俺からしてみればそうやって本気で稽古をつけてもらえる方が断然良かった。こうして本気で稽古をつけてもらえることで俺はもっと強くなれるのだ。もっともっと強くなりたい。誰よりも強くなって、ノアレに凄いって、かっこいいって言われるようになりたいから。そのために俺はこうやって強くなろうとしているのだ。
ザッドクさんに稽古をつけてもらう時は、魔法をほぼ使わずに行っている。何故なら世の中には魔法を無効化するような道具だって存在しているのだ。魔法がもし使えない場合でも俺が戦っていけるようにその術をザッドクさんは教えて呉れようとしているのだ。本当に助かる。
ザッドクさんとの模擬戦が終わった後は、息切れを起こしている俺は休憩するでもなく、ザッドクさんから冒険者としての心得を聞く事にしていた。
「ザッドクさん、今までで一番苦戦した相手ってどんな存在?」
俺がそう問いかければザッドクさんは少しだけ考えるような仕草をした。ザッドクさんは冒険者暦が長いからそれだけ苦戦した相手というのも多いのかもしれない。
よっぽど才能や強さを持っている存在でなければ、苦戦と言うのはするものである。俺がチート系転生主人公ならば、何も苦労することがなく、簡単に人を圧倒出来るのかもしれない。でも俺はそんなチート力なんて全く持っていないのである。
だからこそこういう苦戦した時のことも聞いておきたいのだ。きっと俺は村の外に飛び出したからといって順風に全てが上手くいくわけではないだろう。そもそもうさぎの獣人で、奇抜な戦い方をしていれば絡まれることは必須だと思う。
耳を使って戦うなんて傍目から見たらイロモノでしかないわけで、そんな中で誰にも文句を言われないような存在になるためにはそれ相応の努力が必要だ。
「幻覚の効果を持つ植物系の魔物がいるんだが、そういう相手が大変だったな」
「幻覚?」
「そうだな。個体の戦闘能力は高くはない。けれども知恵が回って、対象に幻覚を見せられる。そういう魔物がいたんだ。その魔物は街の人々を惑わしてその生命力を吸っていた。その存在を知った街は俺達に依頼をしたわけだが……何人か幻覚にやられて、同士討ちさせられそうになったり大変だった。まさか魔物がこんなに頭が回るなんて思ってもいなかったから余計にな」
確かに厄介そうだとザッドクさんの話を聞きながら俺は思った。
「ああいう幻覚を見せる魔物は五感に働きかけるものが多いからなぁ……。ユーリのような獣人は特にかかりやすいだろう」
「あー……嗅覚とか人間より優れてますもんね」
獣人は人間よりも五感が優れている。それは一般的に見れば長所である。とはいえ、五感に働きかけるそういう攻撃においては短所になる。
魔物は自分を殺しに来る敵に対して一切の容赦をしない。五感に働きかけられた時にどんなふうに対処が出来るのだろうか。
「そういう時の対策って何かありますか?」
「一番は耐性をつけることだな。身体に少しずつ慣らしていけば、それらは無効化出来る。あとはその幻覚よりももっと強烈な刺激を与えることだな。敢えて悪臭を放つものを持っていくとか」
「なるほどー。耐性はつけたいですね。俺はどんな時でもどんな場所でもかっこよくありたい!!」
「ユーリは本当に熱心だな。耐性をつけるのは構わないが、それも気を付けなければならないぞ。下手なことをすると五感が死んだり、異常をきたすからな」
「じゃあ、ザッドクさん、危険がない程度で耐性を付ける方法教えてください」
「いいだろう」
ザッドクさんの言葉に、わーいという気持ちになる。……というか、俺本当に体に引きずられていて子供いい思考になっている気がする。
そうして俺はザッドクさん監修の元、異常効果のある攻撃に対する耐性をつけていくことになった。
俺が獣人だったせいで予想外に耐性をつけるための行動で倒れてしまったり、肌が腫れてしまったりとかして、家族には心配をかけてしまったが、俺は耐性をつけて異常な場所でも生きていけるようになるのだ。
なんでそうなりたいかって? その方がかっこいいからだよ!!




