うさ耳くんと、ゴブリン 1
ゲルトルートさんに振られた兄さんだが、あの日以来、益々ゲルトルートさんにかっこいい姿を見せようと行動を起こすようになっていた。一度告白をしてすっきりしたからなのか、ゲルトルートさんへの好意を隠しもしない。
母さんと父さんには、好きな相手に好意を隠さない様子は兄弟そっくりだとも言われた。
うん、確かに俺もノアレに好意を隠す気はないし、今の兄さんって俺と似た感じあるかもしれない。兄さんに惚れてる女の子たちがピリピリしていて怖いから俺はあんまり近づかないように気をつけている。
女の争いっていうのは、幾ら子供でも怖いな!! ってぶっちゃけ兄さんのハーレムみたいなの見ていると思って仕方ない。それを考えると俺は全くハーレムはいいやと思う。ノアレがいればそれでよし! なので、どうかノアレが俺に振り向いてくれますように!! って祈ってならない。
強くなるための努力もずっとしているけれど、今の所、弱点である長いうさ耳をどうにかするのはまだできていないしなぁ。
でも成せばなる、って気持ちで頑張っていこうとは思っている。
今日も今日とて、俺は一人で特訓である。ゲルトルートさんが手伝ってくれることも多くあるが、割と一人で進めていることが多い。
ノアレ、ノアレ、ノアレ、ってノアレのことばかり俺は考えていることが多い。ノアレのことを考えない日がないってぐらい、俺はノアレのことを考えていると思う。最近は兄さんと好きな子談義で盛り上がっている。俺はノアレのことを語り、兄さんはゲルトルートさんのことを語り……中々楽しい。
そんなことを考えながらいつも通り過ごしていたのだが、狩りに出かけていた人たちが帰ってきて、村が騒がしくなった。
何かあったのだろうか?? と思いながらも、俺はマイペースに修行をしていた。
あとから家に帰宅して母さんから、ゴブリンが近くに巣を作り始めているということを聞いた。
ゴブリンというと、前世のファンタジー小説などでは、雑魚モンスター扱いである。そんなゴブリンの巣が出来ていたからと何でこんなに騒がしくなるのだろうか? と最初は分からなかった。
でもこの世界のゴブリンの話を聞いて、俺はぞっとした。
「ゴブリンは一匹一匹は倒すのが簡単だけど、繁殖力が強いの。一匹みかけたら何十匹、いや、下手したら何百匹いる可能性もあると言われているのよ。はやめに対処をしないと大変なことになるわ」
母さんはそんなことを言った。
……前世で言うあの忌々しい黒い虫のように繁殖力があると言われているらしい。
それに加えてゴブリンって、人の形をしていて道具を使うものもいるのだという。今まで俺が狩りに参加して倒していた魔物は全て前世の動物のような姿の四つ足の魔物だった。それを考えると道具を使って、それなりに知能もある人の形をした魔物――ゴブリンというのは確かに恐ろしいだろう。
「ゴブリンに捕まると、繁殖の道具にされてしまうのよ」
そんな説明に、女性だけそうなるのか……と勝手に前世の知識で想像したが、恐ろしい事に男性も捕まると繁殖の道具にされるらしい。ゴブリンにも雄と雌がいるようで、それぞれの相手にされるそうだ。中には男が趣味な雄ゴブリンもいるだとか……うわあああって感じである。ぞっとした。
そんな恐ろしいゴブリンの巣が出来始めているということは、そりゃあ騒ぐことだよ!! と俺も実感した。
この村は小さな村だし、ゴブリンの集落の規模次第では討伐が厳しいかもしれない。それに万が一ゴブリン種の上位種がいたら大変なことになるということで、冒険者の増援も呼ぶらしかった。
冒険者の増援がくるという話に俺は興奮した。将来的に色んな場所を見て回ったりしたい俺は冒険者というものに憧れているのだ。
冒険者って絶対かっこいい奴だろ。前世の小説とかで見た二つ名的なのをつけられている人とかやっぱりいるのかなとか、色んな想像をしてしまった。
村長たちが手紙をだして、冒険者の増援を呼べることになったとのことで、皆ほっとしていた。
ゴブリンの集落の偵察も父さん含む、狼の獣人たちがしていた。それでそこまで大規模な巣ではないということだった。
というか、ゴブリン退治、俺も経験してみたいなと思った。
兄さんたち、俺よりちょっと年上の人たちも本人達の希望で参加することになっていたし。というわけで頼み込んだ。
まだ小さいから――と少し渋られたが、毎日頼み込んだら、父さんの傍を離れないことを条件に許可をもらえた。
ちなみにゴブリン討伐にはゲルトルートさんも参加するらしい。
初めての人型の魔物との戦闘……。正直緊張はするけれど、これも経験だ! と頑張ろうと思う。あと冒険者たちと仲よくなりたい。




