幕間:俺の弟はちょっと変わっている。
俺の名前はコーガ。
兎の獣人の母親と狼の獣人の父親の元に生まれた長男だ。俺は狼の獣人として生まれた。小さな村で、同年代の子供たちと一緒に育ってきた。
丁度、俺の年代が繁殖期だったので同じ年ごろの獣人は多い。それもあって俺は此処でとても楽しく過ごしている。
母さんや父さん、それに村の皆がいるから俺は楽しかった。そんな俺は弟が生まれた時にとても嬉しかった。
ちょうど子供が生まれやすい時期が過ぎて生まれた俺の弟。
初めて見た時から小さくて可愛かった弟は、大きくなっても可愛い。俺が五歳の時よりも小さくて、かわいらしい顔をしている。ピンと伸びたうさ耳もその可愛さを強調している。
男だと知らなかったら女の子だと間違えてしまいそうな可愛い弟。見た目がかわいらしいことや、少し年の離れた弟だというのもあってユーリのことは心配になってしまう。加えてユーリはかわっている。小さいころからちょっと変だ。
何故だか耳や目を塞いで行動したり、走り回ったり、今はゲルトルートさんに習って魔法で変なことをやっている。よく分からないことをやっていて、好きな子が出来たっていって、そのために一生懸命だ。
正直言って、可愛いユーリが危険な目に遭うのも嫌だし、兎の獣人だというのならば裏方にいればいいのに。治癒魔法でも使ってそこで活躍すればいいのに――、戦うのに適さない獣人でもユーリは強くなることを諦めていなかった。
諦めてほしいと思い、もっと安全な場所に居てほしいと願った。俺はだから正直戦いの中にユーリが行くのは今も反対だ。けれど、ユーリがどうしてもやるんだと決意に満ちているから、俺はこれ以上ユーリを止められないなと思っている。
――それに、俺もゲルトルートさんのことが好きになってしまったから。ユーリの好きな人に追いつきたいという気持ちも分かったから。……ゲルトルートさんは俺が子供だから俺のことをそんな風な目では見てはくれてなかった。けど、大きくなっても俺の気持ちが続くなら――って言ってくれた。ずっとこの気持ちが続くのかは分からない。けど、大きくなった時に会いにいけるようになりたいと願った。
だから、今、ユーリと一緒に特訓をしている。
「――なぁ、ユーリ。体力をつけるのは分かるんだが、視覚とかまでふさぐ理由は」
「もし目が見えなくても出来るようにだよ!! どんな状況になっても戦えるようにならないと!!」
「……そ、そうか」
ゲルトルートさんに会いに行けるようにはなりたい、と思いながらも俺はユーリのやるような変わったやり方はやっていない。ただ走ったり、剣を振り回したりはしている。一度、ユーリのやるように視覚を塞いでみたが、恐ろしくて仕方がなかった。
あんな恐ろしい状態で、行動をし続けているユーリは正気か? と思ってしまうほどだ。特に俺たち獣人は五感が鋭いから、余計につらいというのに……。
大変なことになっても、強くなるために必死なユーリは俺とは覚悟が違うのだと思う。
俺はあくまで将来ゲルトルートさんに会いにいくかもしれないからと力を磨いているが、ユーリはきっともっと先を見ているというか、もっと強くなるためのことを考えているというか……どこからそういう発想が出てくるのかもさっぱり分からない。
「ノアレより強くなるんだ!!」
ユーリはずっと、ノアレよりも強くなるんだという意気込みばかり語っている。兎の獣人よりも猫の獣人の方が戦闘に向いている。獣人の中でも特に兎の獣人は戦闘に適していない。その長い耳は、狙われやすい。
……魔力も持ち合わせていない俺には、よく分からないが、そのことをどうにかするために魔法の練習をゲルトルートさんとしているらしい。
ゲルトルートさんと一緒に居たいとは思うので、ユーリが勉強を教わっている時に一緒にいたりはしている。でも勉強は苦手なのでずっとではないが。それにあんなにきれいな人とずっと一緒にいたらドキドキしてしまう。
告白した後は、少し気まずい気持ちになったけれどユーリに「好きならグイグイいかないと。時間は限られているんだから」と子供らしくないことを言われてしまった。その物言いには驚いたが、それもそうだなと思って話しかけるようにしている。
何故か、ルリィたちも一緒に来ようとしたりするけど。ユーリが何か言って二人きりにしてくれたりたまにしてくれている。
「ユ、ユーリ、そろそろ休まないか?」
家のお手伝いの間以外ずっと強くなろうと行動しているユーリ。そろそろ疲れてきたと思った頃にも、ユーリははぁはぁいいながらも必至だ。自分の限界まで追い込むようなことをしているのを、一緒に特訓をしていて初めて知った。
俺が地面に座り込んでいる時もずっと行動している。
――本当に変わった弟だ。ユーリは変な子供だと村で思われている。だけど変わっていても俺にとってはたった一人の、可愛い弟なのだ。変な所も含めてユーリなのだから。




