うさ耳くんと、兄の初恋の行方 1
「コーガ」
「コーガ君、あのね」
今日も今日とて、俺の兄さんはいつも通り女の子に囲まれている。リア充爆発しろという言葉が良く似合う。兄さんである。っていうか、十歳で、もうすっかりもてもてでハーレムみたいになっているってヤバいと思う。
……まぁ、そんな兄さんもゲルトルートさんにずっと恋しているわけだけど。
初恋は叶わないって前世から言っていたもんなーってそれを言ってしまえば、俺もノアレとずっと一緒に居れないということになるので考えないことにする。
それにしても、あれだけ好意を抱かれていても流石鈍感系もてもて少年というべきか気づいていないっぽいしな。こんなにわかりやすいのに。とりあえずゲルトルートさんに憧れて、好意を抱いているのは確かだとして俺の義姉になるのは誰になるんだろうか。まだ先だろうけど、それも気になる。
とはいっても誰と結婚するかとか決めるのは結局兄さんで、俺は弟としてそれを見守ることしか出来ないわけだ。
俺はノアレに相応しい男になるっていう目標があるから、兄さんの恋愛事情ばかりに着目しているわけにもいかない。
商人のガガゼさんから物の価値を習い、ゲルトルートさんからも村の外のことを話しは聞いているけど、やっぱりまだまだ俺は世界を知らない。知らないことが多すぎるのは子供だから仕方がないといえば仕方がないけれど、大好きなノアレとずっと一緒にいるために、ノアレに好きになってもらうためにもっと頑張らないと。
もう少し大きくなったら、街にも連れてってくれるっていってたし、そのためにも頑張る。流石にいきなり、村から学園という巨大な場所に飛び出すと俺が色々大変だからって。
というか、獣人から魔法学園にいける子供も少ないから、村長や他の村人たちも俺が学園で生きやすいようにってお金を出してくれたりとか、色々教えてくれている。本当、変な修行ばかりしている俺をかわった子だなとは思っているだろうけど、良くしてくれる皆には感謝しかない。
援助してくれるっていうのが分かってからはより一層、学園にいくまでの間、村のために狩りとか頑張ろうっておもった。もちろん、ノアレに勝つための修行も欠かさないけれど。
「なぁ、ユーリ」
さて、ゲルトルートさんに勉強を教えてもらおうと向かっていると兄さんに声をかけられた。心なしかそわそわしている気がする。
それにしても耳や尻尾の動きからして、こう……そわそわしているんだなというのが見て取れる。訓練すれば動かなくなるらしいけど、子供の獣人だと絶対嘘とかつけないと思う。
兄さんはその年にしては落ち着いている。下に俺っていう弟がいるからというのもあるだろうけど、俺のことを可愛がってくれて、兄として面倒をよくみてくれている。その可愛がり方はたまに行き過ぎなこともあるし、流石に可愛い可愛いと言われるのは嫌だけど……俺も兄さんのことは好きだ。
最もそんなこと素直に口にしたらブラコン気味の兄さんは変な風になりそうだから言わないけれど。
こんなにそわそわしている兄さんを見ると、何かやらかしたのだろうか、何かあったのだろうかと心配になった。
「兄さん、どうしたの? 凄くそわそわしているけど」
「そのな……ユーリ。俺はゲルトルートさんのことが好きなんだ」
「うん、知ってるけど」
俺は知っていたので、特に驚く事もなくうなずいた。そしたらなぜか兄さんは顔を赤くして驚いていた。気づかれないと思っていたのだろうか。
それはそれで驚きだ。
狼の耳もしょんぼりしている。
見るからに美少年だ。しょんぼりした顔も様になる。多分もっと大きくなったらもっともてもてになるかと思われる。
「そ、そうか」
「それで、どうしたの、兄さん」
「ああ、そのな……ゲルトルートさんに告白しようかと思って」
「え」
俺は素直に驚いた。
ゲルトルートさんに好意は抱いている事は知っていたものの、告白するなんて考えていなかった。
「ゲルトルートさんのことが好きだから。ちゃんと言いたいんだ。ユーリみたいに。俺も子供だから相手にされないかもしれないけど、言うだけ言ってみようって」
そんな風に言って、決意したように俺を見る兄さんはイケメンだった。
「ゲルトルートさんも今はこの村に居てくれているけれど、いつこの村を出ていくか分からないわけだし……その前にちゃんと言いたいなって」
兄さんは俺が思っているよりもずっと、ゲルトルートさんに恋をしていたらしい。
ちゃんと兄さんからゲルトルートさんのどこが好きかなど聞いたことはなかったけれど、ちゃんとずっと一緒に居たいっていう恋を兄さんはゲルトルートさんにしていたんだなと思った。
「そっか……、なら、兄さん俺は応援するよ」
長生きしているエルフのゲルトルートさんが兄さんのことを子供だと思っている事は知っている。でも、こんな風に決意している兄さんを見たら告白を応援したくなって俺はそう言ったのだった。




