うさ耳くんと、初めての魔法 2
俺は深呼吸をする。
初めて魔法を使えると思うと、興奮と緊張が俺の心を支配している。
魔法。ずっと憧れていた力。
俺がノアレに追いつくためには学ばなければならない力。
俺は今から、それを初めて使う。
ゲルトルートさんに見守られながら、俺は口を開いた。
「白色の魔力よ。我が命に従え。白き白き魔力が集い、それは敵を癒す弾丸となる。その姿を現せ。
《白き弾丸》」
白色の魔力は攻撃性の低いものばかりだ。この属性を極めれば、誰かが怪我した時に、治していくことが出来るだろう。
白色の弾丸が一つ出来上がり、少しして消えた。うまく、その魔法を操ることは流石に出来なかった。初めての魔法って難しい。
でもなんとか顕現させられたことが嬉しいと思う。
「やった、出来た」
なんとか、こうして魔法が使えたことに達成感があふれてならなかった。
俺がずっと使いたいと思っていた魔法。強くなるために必要な魔法。
やっと魔法を使えることが出来たんだ。そしてこれが新しい一歩になるんだ。ノアレに追いつくための新しい一歩に。
「良かったわね、ユーリ。まだまだ練習しなければならないだろうけど、ひとまず使えるようになれて良かったわ」
「うん!! ゲルトルートさんが俺に教えてくれたおかげだよ。本当にありがとう!!」
この世界に生まれ落ちて、魔力を持っていたこと、そしてゲルトルートさんに出会えて教われること、それは改めて考えるとすごく運が良いことで、俺はその奇跡に感謝したいと思った。
「いや、気にしなくていいわ。それにユーリが魔法を使えるようになれたのは、ユーリが頑張ったからだもの」
ゲルトルートさんはそういって、優しく笑ってくれている。
俺は恵まれていて、優しい人達が周りにいる。うん、本当に俺って恵まれてるんだなーって思う。
「もっと魔法を使えるようになりたいから、ゲルトルートさん、もっと教えてもらってもいい?」
「もちろん。大丈夫よ。この村に居る間なら幾らでも教えてあげるから。ノアレちゃんに勝てるように頑張るんでしょう?」
「うん!! 俺はノアレに勝てるように頑張るんだ。ノアレに勝って、ノアレにお嫁さんになってもらうんだから」
改めてそんな決意を口にする。
絶対に、ノアレのことをお嫁さんにしたいから。
俺はそんなことを考えながら、その日、魔力切れになるぐらいまでぎりぎりまで魔法を使った。流石に全部が上手くいったわけでもないし、不発になった時は落ち込んだりしたけれども、それでも魔法が使えたというその事実があるだけで俺は嬉しくて仕方がなかったのだ。
家に帰れば、母さんや父さん、兄さんが初めて魔法が使えたということでお祝いをしてくれた。母さんや兄さんは俺が危険な目にあったりするのではないかと不安がっているから、俺が強くなろうとしていることには複雑な思いを抱えている。
強くならなくても、この村で守られて過ごせばいいのよと母さんは言う。
危険なことをしなくてもいいのにと兄さんも言う。
それでも、複雑な思いを抱えていても魔法が使えるお祝いをしてくれる家族のことが俺は好きだと思う。
母さんはごちそうを作って、おかえりと笑いかけてくれた。
父さんは俺が魔法を使えたことを知って、魔物を狩ってくれた。
兄さんもおめでとうと口にして、俺の頭を撫でてくれた。
俺は家族にも恵まれている。
もっともっと、俺は魔法を使えるように頑張る。そしてノアレよりも強い男になる。
「ユーリ、魔法が使えて良かったな。でも危険な真似はしないでくれよ。俺はユーリに何かあったら悲しいんだ」
「兄さん……なるべく危険な真似はしないから安心して」
俺も時と場合によっては危険な目に遭うかもしれないけれど、必要以上に危険なことに首を突っ込むつもりはない。最終的には冒険者になりたいから、それ自体が危険かもしれないけれど……。
「学園に行くのは魔力があったから仕方がないとしても、本当に無理だけはしないでくれよ。……そして学園に行って困ったら俺に頼るんだぞ。何があっても駆けつけるから」
「あのさ、兄さん……。まだ先の話なんだから、今からそんな顔しないでほしいんだけど」
兄さんは心配性で、今から俺のことを心配しているようだ。これって、いざ、学園に入学するってなった時にどんな態度になるんだろうか。今からそのことが思いやられる。
まぁ、兄さんはブラコンなところあるけれど、それ以外は良い兄貴なんだよなぁ。変な行動起こしている俺のこともちゃんと弟として可愛がっているし。
「そうはいっても、俺は心配なんだ。……あ、そうだ、ユーリ。明日もゲルトルートさんのところにいくなら、俺も一緒にいってもいいか?」
「勉強の邪魔しないならいいよ」
……相変わらずゲルトルートさんに淡い気持ちを抱いている兄さんである。
それから家族で会話をしながら、楽しく食事を取った。




