うさ耳くん、また負ける。
「そのエルフの人は?」
「ゲルトルートさん! 俺の村にしばらくいるんだ!」
「ふぅん……綺麗な人ね」
ノアレは俺の村に来てくれた。もし来なかったらどうしようかと不安だった。だって俺はノアレに会いたくて仕方がないから。
しばらく会わなくても、やっぱりノアレを見ると何だか嬉しくなった。
ノアレは、村にいるゲルトルートさんを見て不思議そうな顔をした。あと、なぜか少し不機嫌そうだ。どうしたんだろうか。
「ノアレ、どうしたの?」
「……ふん、何でもないわよ。それより、今年も戦うの?」
「当たり前じゃん! 俺、ノアレに好きになってほしいもん」
「そ、そう」
躊躇いもせずに言ったら少し恥ずかしそうにしているノアレって、本当に可愛いと思う。俺の言葉に少しは恥ずかしがってくれているということは、俺の事が嫌いなわけではないと信じたい。
「あ、そうだ。ノアレ、魔法使えるようになっているなら使ってみて」
「いいの? まだ、ユーリ、使えないでしょ?」
「うん。魔力はあったけど、まだ使えない。でも、俺はちゃんと全力のノアレに勝ちたいんだよ。ノアレにちゃんと好きになってもらいたいもん」
「じゃあ、魔法使う。そんな使えないけど」
ノアレはやっぱりもう魔法が使えるようになっているらしい。流石、ノアレ、凄い。
「あ、でも属性だけは先に聞いてていい?」
「いいわよ。私は、赤と黄、あと無」
「……ノアレ、凄いね。俺、白と無だけなのに」
ノアレはがっつり戦闘に使えそうな属性を持っているらしい。というか、無属性以外に二つも持っているとか、ノアレ凄すぎる。
それから魔法を使うというのならば、ゲルトルートさんが見ていてくれるらしい。魔力の暴走とか、間違って命を失ってしまったりしたら困るからと。
「じゃあ、行く」
「うん」
まだノアレも魔力があると分かって一年。難しい魔法は使えないはず。あと模擬戦だから、死ぬような魔法は使わないはず。流石にそんな魔法を使ってくるならゲルトルートさんが止めてくれるだろうし。
魔法を使える相手と対峙するのって、少しだけ怖い。それでも、これからもそういうことはあるのだから、これは良い練習だ。それに、魔法が使えようとも俺はノアレに勝ちたい。
ノアレに勝って、ノアレに好きになってもらう。
そのためなら、何だってやりたい。
ノアレは地面を蹴って、木剣を振り下ろす。速い。昨年より速くなっているのが分かる。木剣を受け止める。ノアレは魔法を使わない。やはり、ゲルトルートさんが言っていたように両方を行う事は難しいのだろう。
魔法を使おうとはするだろうけれど、どのタイミングで魔法を使ってくるか。
とりあえず口を開こうとしたタイミングで、動きを速めて、魔法を使わせないように心がける。
木剣で撃ち合う。
一才の差があるから、まだノアレの方が力が強い。……このままノアレに力も負けっぱなしだとなんか嫌だから、大きくなったら力でも勝てるようになりたい。でもうさぎって力強いっていうより素早いイメージなんだよな。
「赤色の――」
ノアレが口を開こうとしたタイミングで足を使った。ノアレを転ばせようとしたそれは、ノアレに避けられる。ただ、魔法を使わせるのはなんとかできた。
俺とノアレの模擬戦は何でもありだ。というか、戦いなんて騎士とか以外は基本なんでもありの戦いをするものらしい。
しばらく打ち合いをして、ノアレと向き合う。
俺もノアレも、ばててはいない。ノアレも俺と同じで、体力をつけてきたのだと思う。ノアレは耳を狙ってくるので、それをよけたりしていく。ノアレと模擬戦をしていると、耳を守りながら戦う術も手に入る。
何度も何度も打ち合いをする。
俺もノアレも引く気はない。
そうして打ち合いをする中で、ノアレが突如、後ろにとんだ。俺はノアレが後ろに下がるのは思わなかったので少し体勢を崩してしまう。なんとか持ち直した時にはノアレは魔法を完成させていた。
「赤色の魔力よ。我が命に従え。赤き赤き魔力が集い、それは敵を焼き付く弾丸となる。その姿を現せ。
《赤き弾丸》」
二つほどの燃える弾丸が現れる。二つも出現させて操れるようになっているとか、本当、ノアレは俺が少しは追いついたかなと思えば、すぐ先にいる。だからこそ、追いかけ甲斐があると言えるけれど。
ノアレは魔法を左右に浮かせると同時に、駆けた。
魔法を行使しながら動くのは大変なはずだけど、それが出来ているノアレに戦慄する。本当に、流石だ。
向かってくる二つの炎の弾。追随してくるそれは、俺を追い詰めようと動いている。
くらったらどうしようもない。なんとかよけようとしていたら、ノアレ自身の動きに注目できなかった。それが俺の敗因。
気づいたら、木剣を首にあてられて、自分の得物を取り上げられていた。
「また、私の勝ち」
「また、負けた!!」
そして、俺はやっぱりそう簡単にノアレには勝てないかと思わず座り込んで声をあげてしまったのだった。




