うさ耳くんと、来訪者
俺の住んでいる村は、田舎にある。滅多に外からの人なんて訪れないし、滅多にここから出て活躍する人もいない。そんな辺境の村。だけど、周りがすべて知っている人ばかりだからこそ、穏やかでこれといって問題も起こらない村だ。
この村では丁度、俺より下の年代の子供はいない。また繁殖期が来たら子供が増えるだろうと母さんと父さんが言っていた。……俺より年下の子供が居たら、弟や妹として思いっきりかわいがるのに。そう思うもののいないものは仕方がない。俺がこの村の中で末っ子だから、村人たちは俺の事をよく可愛がってくれている。ぶっちゃけた話を言うと、可愛いと言われるのは正直言って嫌である。とはいえ、皆が俺によくしてくれるのは良い事だ。
その日も、俺は修行と称して走り回っていた。体力をつけて、力をつけるために俺は必死だったのである。ノアレに勝ちたい、ノアレに追いつきたいとそれしか俺の頭の中にはなかった。
ただ、ノアレは魔力を手にしてもっと力をつけているだろうから。そう考えると一歳の差がもどかしい。もし俺がノアレと同じ年だったら、魔力があるかどうかすぐに確認する事が出来るのに。
一心に走り回っていたら、急に声をかけられた。
「少年、少しいいかい?」
「え」
急に声をかけられて、声のした方向を向いて俺は驚いて躓いてしまった。
「少年、大丈夫か!?」
俺突然こけてしまったことに、よほど驚いたのだろう、その人は驚いたように近づいてきた。というか、俺はその人を見て驚いている。
――その人は、美しい顔立ちをしていた。そして、金色の髪を持っていた。それに加えて、耳が長い。
エルフ。
そう称するのにふさわしいであろう女性がそこにはいた。この世界に来てエルフを見るのは初めてであった。そのため、情けない事に体勢を崩してこけてしまったのである。
こけてしまった俺を覗きこんでいるその人は、とても美しい人だった。まぁ、俺はノアレに惚れているから他の異性が幾ら綺麗だったとしてもときめきはしないけれど。寧ろノアレも大人になったらこんな風に綺麗になったりするんだろうかって考えて、大人になったノアレの隣に俺がいれる未来を俺は求め続けている。
「だ、大丈夫です」
俺はそう答えながら、何とか体を起こす。
「良かった。それで、少しいいかい?」
「うん。何か用? お姉さん」
エルフって地球のファンタジー小説とかに出てくるのと同じように、長命種だったりするのだろうか。そんな事を考えながらも何歳かは分からないけど、一先ずお姉さんと呼び掛けておく。女性におばさんとか言ったら大変なことになってしまうだろうから。
「村長の所に案内してもらいたいんだが、大丈夫かい?」
「うん、いいよ!」
それにしてもこの村に他所から人がやってくるなんて珍しい。いつもやってくる商人やノアレの村の人ぐらいしか、この村にはやってくる人なんていなかったのに。このエルフの女性は何をしにここに来たのだろうか。そう思いながらも興味津々で、エルフのお姉さんをチラチラ見てしまう。
「お姉さん、名前は? 俺は、ユーリ」
「私はゲルトルート。エルフが珍しいのかい?」
「うん。初めて見た!」
それにしても流石エルフというか、本当に綺麗な顔をしている。やっぱり魔法とか得意だったりするんだろうか。それにエルフって初めて見たけれどエルフの人ってどんな生活を通常しているのだろうか。エルフの人達ってどんな風に生きているのだろうか。沢山聞きたい事が頭の中に沸いてきた。でも、こんな事を一気に聞いても迷惑かなと思って口には出さなかった。
何の用がこの村にゲルトルートさんがやってきたのかは分からないけれど、しばらく滞在をするのならば色々と聞く事が出来るかもしれない。ノアレに勝利するためには沢山の人の意見を取り入れたい。
俺がゲルトルートさんを連れて村長宅に向かっていると、他の村人たちもゲルトルートさんの事を興味深そうに見ていた。兄さん何てゲルトルートさんを見て顔を赤くしていた。一目惚れでもしたのだろうか。兄さんモテモテだから、兄さんが一目惚れとかしたなら周りが騒がしくなりそうな気がする。
まぁ、とりあえず兄さんの恋愛事情はどうでもいいや。兄さんがノアレに惚れない限りは俺には無害なわけだし。
そんなことを考えながら歩いて、村長宅に到着した。
「ここだよ」
「ありがとう。ユーリ」
俺が案内をすると、ゲルトルートさんは優しい笑みを浮かべてくれた。笑顔まで綺麗だから、周りで見てた男の人達も顔を赤くしていた。奥さんに頭をひっぱたかれている人もいた。
奥さんがいるのに他の人に見惚れちゃ駄目だよね。俺もそういう風に好きな人が以外に見惚れないようにしないとと思った。
ゲルトルートさんが村長宅に入っていったので、俺はまた走り込みを再開する事にした。




