うさ耳くんの、修行 2
体力をつける修行や、剣に関する修行も欠かさない。
というか、俺、まだ四歳なのにひたすらに修行しかしていない気がする。ノアレに出会って、ノアレを好きになって、ノアレに勝ちたいと願っているから。それでずっと鍛錬しかしていないなんて、俺は何て単純なのだろうかと自分に呆れる。
耳や目、鼻を塞いでの移動は少しずつ慣れてきた。全部を塞いだらどうなるだろうかと試してみたら、流石に手足の感覚だけで動くのは無理だった。……でもいつか、全部塞いでもどうにかなれたら、すごいかっこいいと思う。ノアレもすごいと言ってくれるのではないかと思った。
こうして修行を続けていると、俺の体にはちょくちょく怪我が増える。でも少しの傷なら問題はない。大怪我したらどうしようもないから、大怪我はしないように気を付けなければならないけど。
それにしても母さん達は俺が怪我をしたり、よくわからない修行をしているのが心配で仕方がないらしい。父さんは心配しているみたいだけど、男であるなら強くなろうとするのはいい事だと言ってくれてる。でも母さんと兄さんは心配でならないみたいで、俺が無茶をしていると色々と言ってくる。正直、家族に心配されるのは嬉しいのだけど……、強くなりたいのに「強くならなくていい」とか「俺が守るからさ」とか言われてもな。というか、俺は男だし、ずっと兄に守られたままとか嫌に決まってる。
でも何だかんだで、模擬戦とかやってくれる兄さんは俺に本当に甘いと思う。俺の頼みはほとんど断らない。兄さんはもてるんだから、俺にブラコンを発揮せずに、女の子達と仲よくしていればいいのにと思ってしまう。
身体能力を高めるために、村の外にも出たかったのだが、流石にまだダメだと怒られてしまった。うさぎの獣人はそもそも狩りにあまり出かけないものである。そうにも関わらず、狩りに行きたい、外に出たいなどという俺は大分問題児なのかもしれない。まぁ、望むのならばいずれ狩りには連れて行ってくれるとは言ってくれたけれど。
何というか、こう、もっと足場が悪い場所でも動けるようになりたい。いつも平地で、足場が良い場所で戦えるわけではないのだから。なので敢えて、坂になっている場所とかで棒を振り回す。あとは木材の上に乗ったりとか――流石に怒られた。なので後から乗っても問題がない土管のようなものかないか聞いたら、父さんがそういうものを作ってくれると言ってくれた。父さんは何だかんだで俺に甘い。その甘さに俺は助かっている。
それを作ってもらえるまでは、ひたすらに足場の悪い場所を探して、そこで動き回る練習をした。これは中々難しい。バランスを崩すとすぐに倒れてしまうし、足場の悪い場所だと石などが転がっている場合おおい。踏んでしまって、何度か足をいためた。
その度に足を痛めてまでする必要ないと、母さんと兄さんはずっと言っていた。でも俺がやりたいと言ったら強く止められないみたいだった。俺は親不孝者かもしれない。——でも、折角転生したのだから、やりたい事をやりたかった。
目を瞑って、坂を移動しようとしたら流石に転がり落ちた。受け身の取り方を学んでいたからなんとかなったけど、危ない危ない。……運よく誰にも見られていなくて良かった。見られていたら流石に止められていたかもしれない。そう考えると人目というのは一番気にしなければならない。俺が強くなるために一番気にしないといけないのは、母さんと兄さんの目だ。でもある程度、平地での移動は目や耳や鼻を塞いでいてもどうにかなるようになっているのだ。ならば、少しぐらい足場が悪くてもどうにかなるのではないか。そうするために必要な事は、神経を研ぎ澄ませる事だろうか。いっそのこと、瞑想してみるか? 目を閉じて、心を無にしてしばらく過ごせば何かつかめたりするだろうか。
そんな思いにかられた俺は、思い付きで瞑想まで始める事にした。家で瞑想を始めたら母さんと兄さんが何か言いそうだったので、誰もいなさそうな村の端っこで瞑想をすることにした。そして何かの気配がしたら、瞑想を中断しようと決めた。
最初に空を飛ぶ鳥の気配で、瞑想をやめた。次に近づいてくる人の気配でやめた。その次は兄さんの呼ぶ声でやめた。そんな事を続けていれば、何だか、少しずつ心が落ち着いてくる。何かの気配というものが、心なしか感じやすくなった気がした。
もしかしたら今、俺がやってる修行は将来的に無駄になるかもしれない。もしかしたらノアレに追いつくなんて出来ないかもしれない。——でも出来ないと諦めたら、何も始まらない。前世の俺は、ここまで必死に何かに取り組んだことがなかった。だからこそ、今世はもっと頑張りたい。
そんな思いで俺は、修行に取り組んでいった。