うさ耳くん、魔力が欲しい。
「そういえば、私には魔力があるみたいなの」
ノアレのいる村から自分の村へと戻る際にノアレにさらっと告げられた。五歳になったノアレは魔力検査をして、獣人にしては珍しく魔法を使えるだけの魔力を持ち合わせていたらしい。
――それを聞いて、自分の村に戻るまでの間、ずっと俺も魔力が欲しいと願った。魔力検査をするのは、来年だ。その時に、魔力があって欲しいと期待する。
それは折角異世界に来たのだから魔法を使いたい、という願望があるからというのもあるけれど、ノアレにこれ以上は差をつけられたくなかった。ノアレだけが魔法を使えて、俺が魔法を使えなかったら——俺はノアレに追いつくのが難しくなる。絶対に出来ないとは思わない——ううん、思いたくない。諦めなければどうにでもなるとそんな風に信じて俺は頑張りたいと思った。
だってノアレは俺が初めて一目ぼれした女の子だから。ノアレとずっと一緒に居れたらいいなと思うから。
「――俺にも、魔力あればいいな」
「……なくても落ち込まないようにな、ユーリ」
帰り道の、俺の呟きに父さんがそんな事を言う。
俺にもし魔力がなかった時に、俺がどれだけ落ち込むのだろうかと考えてそういう事を言ってくれたのだろう。俺の事を思って、ちゃんと言葉をかけてくれる父さんの事、好きだなって思う。
獣人で魔力を持っている人は少ない。
俺の住んでいる村には一人もいない。――ノアレの村にも全然いない。だから、ノアレが魔力を持っていたのが本当に珍しい事なのだ。
だから、俺は魔力を持っていない可能性が高いだろう。
でも、そうだとしても魔力が欲しいと思うから魔力を持っている事を願ってしまう。
魔力を手に入れられる事が出来たら、ノアレに追いつけるようになりたい。そんな風に期待をしてしまう。……まぁ、魔力がなかったとしても俺は強くなれるように頑張るつもりだけど。
そんなことを考えていれば、自分の村に到着した。
「ユーリ、お帰り」
「ユーリ、お帰りなさい」
兄さんや母さんが俺に向かって笑いかけてくれる。家族にこうして迎えられる事に心が温かくなる。母さんには思いっきり抱きしめられた。
俺はノアレに会いたいと思ってならなくて、喜んでノアレの村まで行った。だけど俺が村を離れたのは初めてだったし、母さんはとても不安だったんだと思う。
俺はノアレに会えるんだって、そればかり考えて浮かれていたことを少しだけ反省した。母さんを抱きしめ返す。母さんは安心したようにぎゅっとしてくれて、兄さんも一緒になって俺を抱きしめる。
前世での家族仲は悪いわけではなかった。だけど、今世ほどではない。こうやって仲が良い家族というのは何だかいいなって思った。前世では高校生で亡くなって親不孝な事をしてしまったので今世では長生きして、母さんや兄さん、父さんを悲しませないようにしたいと抱きしめられながら思った。
それからノアレの話を母さんや兄さんとした。
ノアレが魔力を持っている事を言ったら、母さんたちも驚いていた。
母さんは魔力もちならば勝つようになるのは難しいかもしれない、と厳しい事をちゃんと言ってくれた。
でも俺はそれに、
「それでも頑張る」
と俺は答えた。
頑張らなければならない。折角第二の人生を生きているんだから。何の因果か、前世の記憶を持ち合わせて俺は生まれ変わった。
どういう偶然なのか、何か意味があってなのか、そういうのは全然分からないけれど、一度人生を終えたからこそ、今世は今回しないように生きていけたらいいとそんな風に思ってならない。
まずは、来年に向けて頑張ろう。
来年にある魔力検査。――それで魔力があればいいと願おう。もしなかったとしても、俺がやっていけるようにひたすら体力をつけよう。
あとやっぱり、魔力が手に入らなかった場合も考えて行動しないと。
「ノアレちゃんは魔力があるならば魔法学園に通う事になるのね」
母さんがそうも言っていた。
魔力を持っている者達は貴賤の差関わらずに魔法学園というものに通う事になっているらしい。十歳からの学園に八年間通う事が義務付けられているという話だった。
その学園にノアレは通う。
もし魔力があればノアレと一緒に魔法学園に通う事が出来るのか。学園の制服着ているノアレもきっと可愛いんだろうなってずっと先の事を考えてしまう。
俺も魔法学園に通えたら、一番嬉しいのだ。
だからこそ、今度ノアレに会った時に、ノアレに強くなったと思われるように、ノアレに勝てるように努力しようと思った。