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心を奪われる、うさ耳くん ②

 強い男が好きだと、兎は嫌だとそんな風に言われてしまった。

 俺は正直凹んだ。言われてすぐにその場から逃げ出すぐらいには落ち込んでいた。

 一目ぼれしてしまった子に、そんな風にばっさり言われてしまうなんて……と少しだけふさぎ込んでしまった俺だ。

 膝を抱えて考える。

 あの子に言われた言葉について。

 強い男が好きで、だから兎は嫌い。

 それは兎が弱いから。戦うのには適さないから。だからこそ、弱いとばっさりといわれてしまった。

 俺が兎だから、戦うのに適さないから、だからあの子は俺の事を嫌だといった。

 そこで諦めるか? と考えた時、それは嫌だと思った。

 そもそも、俺がばっさりとあんな風に言われてしまったのは俺が兎だから。そして弱いとされているから。なら、俺が、強くなったなら。

 あの子に認められるぐらいに強くなれたなら、名前も知らないけれど俺が惹かれてしまったあの子だって俺の事を好いてくれるかもしれないのではないだろうか。

 やりもしないで、諦めるのは嫌いだ。

 正直凹んでいるし、落ち込みもしている。

 でも、いつまでもうじうじと悩んでいるのはそれは女々しい事だし、あの子の好きな強い男ではないと思う。

 ―――なら、さっきはショックで逃げてしまったけれどこうやって逃げているわけにもいかない。

 俺は立ち上がる。立ち上がって、外に出ようとすれば心配そうに俺の事を覗き込んでいた兄さんと母さんがいた。

「ユーリ、大丈夫か?」

「ユーリ、大丈夫? 女の子は沢山いるんだから、ユーリの事を好きだって言ってくれる子も出てくるだろうから落ち込まないで」

 二人ともそんなことを言う。

 二人とも、多分俺があの子の事をあきらめると思ってる。――でも、そんなことしたくない。だって前世も含めて、初めての一目ぼれだった。初めてあんなにも最初から心が惹かれた。

 だから、俺は———。

「――あの子の所、行く」

 俺はそれだけ告げて、あの子のいる場所を二人に聞く。そして二人に案内されながら俺はあの子の元へと向かう。俺が何かしら決意を帯びた瞳をしているのに気づいてか、二人は俺の事を少しだけ心配そうにしながらも案内してくれた。



 二人に連れられながら、俺はあの子の事をずっと考えていた。

 まだ、名前さえも聞いていないあの子。だけど、俺が一目見て惹かれてしまった女の子。

 何だか妙に惹かれて、心がざわついて。だから、名前さえも聞いていない段階で、好きですなんて告白をしてしまった。

 ……俺は諦めない。

 だって強い者が好きだから、兎は嫌いっていうのはお断りの理由にはならない。俺が強い兎になれば、問題がないっていうこと。そもそも、であってすぐにばっさり断られて断れなんてしない。

 だから——、

「また来たの?」

 また現れた俺を見て少しだけめんどくさそうな顔をしている少女を前に俺は宣言することにした。

 相変わらず少女の父親らしい人の視線がきついけど、そんな視線に負けていたらどうしようもない。

「俺、ユーリ」

 まず、先ほど自己紹介さえもできてなかったので自分の名前を名乗る。俺の名前を少しでも目の前のこの子が頭に刻んでくれればいいと思った。

「ふぅん……私はノアレ」

 ノアレ。

 そう名乗った少女は、俺の事を興味なさ気に見ている。

 先ほど好きです、と告白したばかりなのにノアレの中ではもう先ほどのばっさりとした返事で、もう俺の告白は終わったことになっているのかもしれない。

 だけど、終わらせてたまるか。まだ始まってもいないのに。あの一言でもう終わりにしてたまるか。そんな思いが、俺の心にはわいてきていた。

 だから——、

「俺は、やっぱり、好き」

 真っ直ぐにノアレのことを見つめて、そんな風に告げる。

 ノアレは驚いた顔をしている。断られて逃げた俺がまたそんなことを言うとは思わなかったのだろう。きょとんとした、驚いた顔をしている。

 俺はそんな彼女に告げる。

「強いのが好き、兎は嫌、って言った」

 そう、ノアレが言ったのは強いのが好きで兎は嫌いだっていうそういうこと。ならば。

「俺は、強くなる」

 なら、俺は強くなると、ノアレに宣言をする。

「強い、兎になる」

 強い兎になる。そうすれば、強いのが好きなノアレにとって問題がない存在になれるはず。ノアレが俺の事を気にしてくれるようになるはず。

 だから、俺は強くなる。

 それを俺は決意した。一目ぼれした女の子に好きになってもらうために、認めてもらうために強くなると。

 そしてきっと、ノアレの視界に映るようになって見せると。そんな決意を込めた宣言。

 ノアレはそんな俺の宣言を聞いて、驚いたように目を見開いた。でも、次の瞬間には面白そうに笑った。

「そう、楽しみにしてるわ」

 そんな風に笑ったんだ。

 俺の宣言を突っぱねるではなく、俺の本気が届いたからか、それを受け止めてくれたのだった。





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