うさ耳くん、二歳になる ③
二歳の冬。要するに俺にとって生涯で二度目の冬を迎えた。この村は雪が降らない地域だ。だから、雪による自然災害はないのは幸いである。とはいえ、俺としてみれば異世界の雪というのも見てみたかったのだが、そのあたりは仕方がない。いつか、冒険をしてこの世界を見て回れるようになったら雪のある地域にも行ってみたい。
そういう願望がどんどんわいてくる。
夢ばかりが沸いてくる。これからの事に希望も湧いてくる。
そのためには、やはり、うさ耳をどうにか攻略することが目標だろう。誰かと戦う際にうさ耳が邪魔にならないようにしなければならない。そうするための方法を考えなければ。
冬は雪は降らないとはいえ、寒いのには変わらないから風邪をひかないようにと母さんが俺に「上着を着なさい」とかずっと言ってくれてた。幼い俺が風邪を引いたら危ないからって。
という、母さんの願い空しく俺は見事に風邪をひいてしまった。なんということだろう。しかも前世のようなすぐに体調が回復するような風邪薬はない。熱が出て、体が熱くてきつい。
熱を持った体。
何だかだるさを感じながら横になる。
村の薬師のおばあちゃんが薬を調合してくれたらしいけど、凄い苦かった。しかも中々熱が引かないし。
俺、このまま死んだらどうしようと思うと、凄く暗い気分になった。
異世界だって浮かれてばかりだったからこんな目になってしまったのだろうか。憧れて、浮かれて、そういう前向きな事ばかり考えていた。だけど、そうだ、異世界は危険な事も多いし、こういう事態になることも多いってこと、俺はあんまり理解出来てなかった。
少しだけ熱は引いたけれど、まだ、辛い。
しかも、効いたかと思ってのんびりしていたらまた辛くなった。
耳がしょんぼりと下がっていっている。
尻尾もしょげている気がする。
母さんがずっと傍にいて看病してくれてた。風邪の間は他の人にうつしたら危ないからってあんまり人を近づけないようにという感じらしく、母さんだけが傍にいてくれた。でも母さんに映してしまわないかって俺ははらはらしていた。というか、まだ辛いけど俺大丈夫なんだろうか。
そんな風に考えながら過ごした数日後、俺はなんとか回復した。
「ユーリ、じっとしてた方がいいよ」
「ユーリ、ゆっくりしてて」
回復して、もう元気なのだけど周りには無茶をしないように、じっとしててと凄く言われた。まぁ、仕方がないことである。
二歳児で病気になったら死ぬ確率の方が高いらしくて、とても心配された。そういうの聞いて、俺、死ななくてよかったと本当に思った。それにしても、やっぱ死ぬかもしれない事、病気とか色々な事は前世よりもずっと多いと思う。ならば、やっぱりこの与えられた二度目の人生をもっと後悔しないように楽しみたいという気持ちがわいてきた。
まだ子供だから自由には動けないけど、もっと好きなようにやりたいように出来る俺になりたい。
剣を習いたい。
もっと体力をつけたい。
魔法が、使えたら嬉しい。……使えるか分からないけど。
母さんの膝の上に座ったまま、自分の未来について考える。具体的な案を考えて今のうちから少しずつ問題点を解決していけば俺もいつか、冒険者としてやっていけるのだろうか。
わくわくしてくる。でも気を抜く事は出来ない。
楽しみとか、未来に対する期待しか感じずに行動していたらやらかしてしまいそうな気がする。もっと気を引き締めないと。
あと耳に対しては、どうするべきか本当に考えないと。耳を切られたら困るからどうにかしなければ。
耳に防具をつけるとか? でもそれはそれで重くて動きにくかったりもするのだろうか。
でも現状、他に手段がない気がするので、そういう風に目指そう。あとは耳を攻撃されないような技術を学ぶべきなのだろうか。
でもまだ剣は持たせてもらえないから、素早く動く練習でもしよう。少しずつ体を鍛えていって、目指すは冒険者。
……でも、あれだ、回復した俺に無事で良かったと声をかけてくる母さんに冒険者になりたいなんて言ったら泣くだろうか。でもどこかのタイミングできちんと言いたいけど、いったら反対されるだろうか。
んー、というか、こういう自分が将来どうなりたいかってどのタイミングでいうべきなのだろうか。
でも俺の夢も、そのうち変わるのかもしれない。
冒険者になりたい、という夢から他の夢へと。
俺の夢がこの先、変わらないでいればこの俺の夢を母さん、父さん、兄さんたちに告げよう。
まだ、先の事になるけれども……、ひとまずそんな目標が出来た。風邪を惹かないようにする、体を強くする、体調管理も気を付ける。そして、冒険者になりたい。
―――いつ、死ぬかどうかも分からない世界なのだからこそ俺のこの胸に灯った夢を叶えたい。
二歳の冬、そんな風に思った。




