報告と信頼
「ところで夜空。貴方私達の能力とか見えているわよね。」
「あぁ、見えてるけど?」
「教えてくれないかしら。出来るだけ自分達のことは知っておきたいの。」
「蓮華は≪完全記憶≫、葵は≪万能料理≫と≪魔法製作≫だな。」
「夜空君は?」
「おれは≪無限収納≫と≪神眼≫だな。あとは不明。」
「じゃあ、これから増えるんだ。」
「いつ出るかは分からないけどな。」
「凄いね。そんなにあるんだ。」
「ホントね。私なんか一つしかないのに。」
「葵も蓮華もまだ未開放の欄がある成長の余地はあるよ。」
「ホント!?やったー!」
「夜空はどれくらいあるの?」
「おれはあと、6こだな。」
「うわー。なんか狡いわね。」
「いや、おれが望んで得た訳じゃないし。おれがこの世界に来た時にはもう6この欄が空いてたし。」
今は6こ以上になったけどな。
ヘルムの能力を受け継いだせいで元あった欄より増えてる。
『マスターに死なれると面倒なのじゃ。《素質を持つ者》はそうそういないからのー。』
『《素質を持つ者》ってなんだよ。』
『簡単に言えば魔族の王になる素質があるということじゃ。』
『はぁぁ。おれは王になるつもりは無いぞ。』
『あくまで素質の話じゃ、なるかならないかはマスター次第じゃな。』
そうか。それなら少しは気が楽だな。
今まで高校生だった奴がいきなり王になれとか無茶振り過ぎる。
そんなことを話しているとギルドに着いた。
正直行きたくない。
けど、あんな事があったんだから説明する義務はあるだろう。
気が向かないが仕方ない。
「ナイトさん!あの龍は何ですか!」
まず声を掛けてきたのは受付嬢さんだった。
「とりあえず落ち着いてくれ。ちゃんと話すから。」
質問攻めにされる前説明する。
おれ達は応接室に通された。
「君がナイト君かね。」
応接室に入るとヒゲを生やしたオッサンがいた。
「ギルドマスターのダイスだ。」
この人がギルドマスターか。
ギルドマスターは冒険者の中でもギルドに多大な貢献をした者がなれる権利を貰える。
強制では無いためめんどくさいと感じたら辞退すればいい。
その場合、ギルドマスターは他の冒険者から選ばれる。
「早速だが、湖で何があったか聞きたいのだがいいかな。」
「おれとここにいる葵はコポラの討伐クエストを受けていて湖に向かった。でも、コポラはいなくて暫く探していたんだが、そしたら、水龍が現れて交戦になった。」
それから、
・水龍が人になって襲ってきたこと。
・戦って水龍を撤退まで追い込んだこと
を話した。
途中葵がこちらを見てきたが目配せで黙ってもらった。
「湖でそんな事が。ありがとう。これで水龍による被害が減るだろう。それとクエストは不可能だったとして水龍討伐による報酬を君にはあげよう。」
「分かった。じゃ着替えとかあるからおれ達はこれで。」
そう言って応接室を出た。
「おれ。ちょっと服屋行ってくるわ。」
水龍との戦闘で制服に穴が空いたし所々切れている。
「この際全員服を変えましょ。どの道制服じゃいい意味でも悪い意味でも目立つしね。」
ということで服屋。
こういう時って女の子って異常に長いよな。
なんで、服選びにそこまで時間を掛けられるのか不思議である。
店内に入ってすぐにおれは決まった。
黒いシャツにジーパンみたいなズボンと黒いコート。
なんか全身真っ黒になったが気にしない。
元々黒は好きな色だ。
だから、これにした。
おれが決まってから数時間後蓮華と葵も決まったらしい。
長いよ!
なんで服選びに何時間もかかるんだよ!直感に頼れ!
とは言えず二人を見る。
蓮華は黒い長袖シャツに黒いジーパン。
コート以外はおれと変わらない。落ち着いた雰囲気だ。
葵は水色のシャツにホットパンツだ。
白い雪のような足が眩しい。
「二人とも似合ってるよ。可愛い。」
「良かったわね葵。夜空が可愛いって。」
「時間かけて選んだだけあるね。」
二人の声は小さすぎて聞こえない。しかし、喜んでいるのは確かだった。
まぁ、ずっと制服よりオシャレしたいよな。
高校生だし。お年頃だし。
会計を済ませて店を出る。
ちなみにこの服屋は防具屋としてもやっているらしく、おれのコートはちょっとした補正が付くらしい。
黒コート
[防刃]、[耐火]、[耐水]、[耐電]、[魔法適性強化]
「そだ、この街を出ようと思うんだがいいか?」
「え、なんで急に?」
「水龍との一戦で騒がしくさせちゃったから暫く街を離れようと思うんだ。」
「じゃあ、もう目的地は決まってるの?」
「次は王都に行こうと思ってる。ここから3日程の旅になるな。」
「私はどちらでもいいわよ。」
「私もどちらでもいいよ。」
「じゃ決まりだな。出発は3日後それまでに各自準備をしておいてくれ。」
それから、3日間はそれぞれの準備に取り掛かった。
食料品から日用品までを買い馬車も購入した。
あっという間に3日経ち出発の時。
「よし。王都に向けて出発!」
「「おー!」」
気分は日本で旅行しているような感じ。
しかし、この世界では旅行途中で命を落とすこともある危険な旅行だ。
それは、ほんとに旅行か?
そんなことはさておき王都に向けて出発したおれ達。御者は蓮華。
おれは警備。
葵は料理人。
なんか今更だけど、凄いアンバランスなメンバーだよな。
なんでも蓮華は前の世界で乗馬の訓練をしていたみたいで馬の扱いには慣れているらしい。
おれと葵は帆の中でくつろぐ。
といっても常に索敵スキルを発動しているため敵性が接近してきたらすぐに分かる。
「夜空君。さっきなんで嘘ついたの?」
蓮華にも聞こえない様な声で葵が聞いてきた。
「説明出来ないからだよ。」
「どういうこと?」
「葵はおれが一度死んだことを見ているだろ?でも、ギルドマスターや受付嬢さんは信じないよ。実際、目の前で喋ってるんだから。」
「そっか。そうだよね。でも、私的にはいくつか引っかかる所があるんだよね。」
「どいうところが?」
「夜空君は一回心臓を貫かれて死んじゃったよね。でも、なんでか生き返った。それも意思がある状態で。けど、記憶がない。ね、おかしくない?」
「ちょっと待った。なんで、あの時おれに意識があったって分かるんだ?」
「あの時、私が水龍を殺しちゃうのを止めたら夜空君止まったでしょう?それで、意識はあるのかなって思ったの。」
「ふむ。なるほど」
少し迂闊だったようだな。まだ、葵達にはヘルムのことは話すつもりはない。
魔族は封印されてるしもし、魔族の力を持ってると知られたら何されるか分かったもんじゃない。
「夜空君は多分私達を守るためになにかを隠してるんだと思うの。」
「なんでそう思った?」
「女の勘。」
あ、はい。
女の勘ってすげー。
「話せる時でいいからその時になったらはなしてね?」
おれは無言だった。
ここで、返事をすると隠し事をしてると認める様なものだ。
実際してるのだがそれを探られるのはまずい。
だから、無言を貫いた。
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私琴葉葵は知ってる。
隣にいる男の子が私の何倍も強いことを。
それは、夜空君が倒れていた時聞かされた事実。
ヘルムと名乗る女の子から
『マスターは数少ない《素質を持つ者》じゃ。それは、魔族の王になる資格を持つ者という事じゃ。マスターは嫌だと言っていたがの。まぁ、本人からすぐには聞けないかもしれないが本人が話すまで待って欲しい。これは、国をも揺るがす事じゃ。もし、バレる様な事があればその力を求めどんな事態が待っているか妾にもわからない。だから、このことは他言無用でマスターが話すまで待って欲しい。』
と聞かされた。
夜空君に何が起こっているのか大体知っているけどそれは、夜空君本人からちゃんと聞きたい。それは、
信頼の証でもあると思うから。