水龍戦と思い
今おれの目の前には一体の龍がいる。
『警告する。今すぐここから立ち去れ。』
龍だ。
めっさカッコイイ!水龍だからか翼は無いものの硬そうな鱗とかゴツゴツとした頭部も全てがカッコイイ!
『.....聞いてるか。』
『は!ごめん。なんか言った?』
突然の龍の登場に興奮しちゃったよ。
『もう一度いう。今すぐここから立ち去れ。さもなくば生きては戻れんぞ。』
「そうしたいけどそうするとクエスト成功にならないんだよね。」
『そんなもの我には関係ない。帰らぬというなら消し炭になるがいい!!』
そう言うと水龍は口から大砲の弾ほどの魔法を放った。
意外と短期だな。
水龍が放った魔法を魔剣の能力《魔法消去》で斬る
放たれた魔法は剣に当たった瞬間光の粒子となって霧散した。
『貴様!魔剣持ちか!なら、容赦は出来ん。』
そう言うと水龍は口の前に魔法陣が出現。
あ、これはまずい。
「葵。ごめん。」
「え?きゃあ!ええぇぇ!」
おれは葵を横抱き─お姫様抱っこして水龍から距離をとった。
その瞬間に放たれる極太レーザー。
さっきまでいた場所は半径5m程のクレーターになっていた。
「おいおい。自分で荒らしてどうすんだよ。」
『む、やはりこの姿では威力が大きすぎたか。しばしば待たれよ。』
そう言うと水龍の体が光出して収まるとそこには水色の髪をした葵とほとんど変わらない位の身長の人が立っていた。
声と姿のギャップご凄い。
見た目は少女だが声は大人。
うん。違和感しかない。
「この姿も何百年ぶりだろうか。こんな醜い姿をするなんてあの時以来だ。」
「なんだ、人の姿にもなれるんじゃん。」
「む、これは周りの動物へ配慮した姿だ本来ならあの一撃で終わっていたものそれを貴様が避けるからだ。」
「だって当たったら死ぬし。」
「いっそ死んでくれ。」
「断わる。」
そう言ってお互いに敵意を剥き出しにして睨み合った。
あ、葵は遠くの木の影に隠れている。
「まぁ、よい。この一刀で沈めてくれる。」
水龍が取り出したのはおれが持っている『洋刀』ではなく『刀』だった。
「『大業物12工の一つ《夜》』か。」
「ほう。この刀を知っているか。」
「まぁね。昔にちょっと興味があって調べただげだけどな。」
話すこと無くなってお互いが睨み合う中先に動いたのは水龍の方だった。
50mはあるだろう距離を一瞬で詰めて《夜》を振り下ろす。
おれは剣の淵で流して反対側に飛んだ。
相手は刀。
下手に受ければ刃こぼれのする可能性があるため不容易に受けることができない。
そこからは防戦一方だった。
攻撃しようにも全く隙がない。
前の世界でもこういったことはあった。
竹刀と薙相手に防戦一方を強いられたがそれはあくまで模擬戦。被弾覚悟で突っ込めば何とかなったが、
今回は実戦。
当たれば確実に死ぬ。
「戦闘に集中せよ。」
水龍が《夜》を横薙ぎに一閃。
おれは、咄嗟に剣を盾にして後ろに飛んだ。
それでも詰めてくる水龍。
久しぶりに人間の姿になったというが剣筋から踏み込みまで歴戦の戦士のそれだった。
暫く打ち合う。
振り下ろしてはいなして払われては受けての繰り返しだった。
限界はすぐにやってきた。
所詮は人間。所詮は付け焼き刃。
剣を振るったことな無いおれの腕は限界を向かえて。
動かなくなった。
それを好機と見て水龍は目にもの止まらなぬ速さで斬った。
結果おれは地面に倒れることとなった。
「痛ってぇ。竹刀とは違う痛みだな、」
「何を意味の分からないことを。」
「こっちの話だ。」
「ふん。まぁ、よい。貴様はここで死ぬ。貴様の隣にいた少女もすぐに後を追うだろう。精々あの世で我と戦ったことを誇るといい。さらばだ。」
そう言って水龍はおれの心臓に刀を刺した。
おれの意識は深い闇へと落ちていった。
「さて。次は貴様の番だ。」
水龍は葵の姿を捉えると一瞬で移動。
斬ろうと振り下ろす。
しかし、それは俺の能力≪安全地帯≫によって阻まれた。
俺の能力はその名の通り安置を作り出す能力。
守りたいものを自分が犠牲になってでも守りたいという思いから発現した能力。
被ダメが倍加するが今はもう関係ない。
私は見てしまった。
大切な人が目の前で殺されるのを。
私より何倍も強い夜空君。
いつも優しい夜空君。
地味で目立たない私を可愛いと言ってくれた夜空君。
大好きな夜空君。
夜空君のことを思うと自然と涙が出てくる。
異世界に来てまだ、1週間も経ってないし夜空君と出会ってまだ5日目だけど前の世界より鮮明に思い出として残っている。
そんな、彼が死んでしまった。
暫くのあいだに私は放心状態となり何も出来なくなってしまった。
水龍は今も私を探している。
見つかるのは時間の問題。
今は防御的な何かが守ってくれている。
しかし、すぐに見つかってしまった。
一瞬で詰めてきて防御を破ろうと刀を振る。
(いやだ、死にたくない。また、夜空君と蓮華と笑っていたい。嫌だ。嫌だ。)
しかし、ふいに水龍の斬撃が止まった。
何事かと目を開けると。
そこにここにはいるはずのない人物が立っていた。