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たなばたつめ  作者: 一口太郎
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ベガ

 高校生活の最後の日といえば?

 はい、卒業式です。この日を境に、髪を染めたり、 ピアスを開けたりする人もいるだろう。私も、 ピアスは物怖じしてしまうけど、髪は染めてみようかな、なんて。

 そして、今日がその卒業式。三年間の高校生活、 彼氏は一度もできなかったけど、友達はいっぱいできたし、 部活や催し事も月並みには頑張った。

 色々と追想してみても、充実した高校生活だったと思う。 あわよくば、恋人の1人や2人は欲しかったけれど。


「おはよー、コトちゃん」


 私に挨拶してきたのは、同性で一番仲が良い、 天文学部の友達だった。


「おはよう」


「遂に高校生活も今日で終わりかぁ」


「うん。あっと言う間だったね」


「あーあ、共学やったのに彼氏の一人もできんやったよ。 君も同志かな?コトちゃん」


「うるさい。私は作らなかったの」


「あははっ」


 このたわいもない会話も、今日が最後か。そう思うと、 今日の彼女との会話はいつもより少し物悲しく感じた。


「夏になったら、毎晩ベガとアルタイル見てたのになぁ」


「何それ?」


「えっと、こと座のベガがいわゆる織姫様で、 わし座のアルタイルがいわゆる彦星様だね。ついでに、 この二つと夏の大三角を形作る白鳥座のデネブは、 二人を会わせる為に天の川にかかる橋だと言われて……」


「あーはいはい。要するに、 私たちは織姫様にはなれなかったってことだね」


「そこ、うるさいぞ。同志同士仲良くしましょうか」


「えー、やだなー」


 そんな会話をしながら、遂には下駄箱に着いた。いつも通り、 私はスカートを気にしながら靴を脱いで、 その靴を下駄箱に入れようとおもむろに下駄箱を開けた。


「何これ?」


 私の下駄箱には、いつもは入っていない手紙が入っていた。 宛名は私の名前だ。パッと見る限りでは、 差出人は書かれていない。

 なるほど、恐らく担任からの労いの言葉だな。そう思った私は、 その場で開封して、内容を確認する。


《好きです。卒業式が終わった後の12時に、 B校舎の屋上で待っています》


 おや、これは……。漫画とかでよく見る"アレ"?

 私は、それが恋文であることを理解するのに、 そう時間はかからなかった。

 初めて貰う代物に、私はどうしたら良いか分からず周章狼狽。 空蝉のように魂が抜ける。空言ではないかと疑いつつも、 空華に支配される。


「コトちゃん?」


「うわっ」


「どしたん?それ何?」


「あの、私、織姫様になれるかも……」

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