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後悔と死を綴る

作者: 雪水湧多

僕は、死に触れた。

直接自分が触れたわけではないけど、触れた。

自分が手を伸ばし触れた訳ではないけど、触れた。

自分感じた、その感覚がまるで触れたようだった。

温かった。

生きている頃には、温かさを感じた。

優しさも、厳しさも...他にもいろんなことを感じた。

それも、手が感じた温もりではなかった。

視線。

温かい視線。眼差しと言うべきか。いや、

眼差しでもない、その人の目が元から優しさなどを持っていたのだろう。

その、温かさを感じれないと思うと悲しかった。

亡くなってから、初めに思ったことは後悔だった。

「もっと、一緒にいろんなことや、いろんな所に行って思い出を作りたかった」

後の祭り。


3月3日午前3時4分。

母型のおじいちゃんが亡くなった。

おじいちゃんは、釣りが好きだった。

僕の血筋の男は、全員が釣り好きだった。

もちろん、僕も釣りが好きだ。

おじいちゃんは、それ以上に好きだった。

仕事から帰ると、新聞、携帯、息子から釣り情報を集めていた。釣りに行く前一ヶ月からそわそわするぐらいだ。

それくらい好きだった。

だけど、真面目な仕事人間でもあった。

病にかかったけど、家族のために働きできる限り家族に負担をかけないようにした。最後の最後まで会社に所属していた。結果として、裏目にでることもあったが...それは目を瞑る。

それくらい仕事人間だった。


僕が起きたのは、3時50分ぐらいだった。

父親に起こされ、事情を話された。

言うまでもなく、やばいと言うこと。

直ぐに着替え、入院している病院に、父、兄、父型の両親と向かった。


道中、車から夜空を見た。

雲ひとつない、綺麗な夜空だった。

高い所から見た、夜景にさえ星々の海と感じれた。


病院に着くと、急いで、病室に向かった。

病室についても、時既に遅し。

亡くなった後だった。

母は、先に向かっていたが、その死に立ち会えなかったと言う。母の兄もおばあちゃんもだった。先にいた三人が泣いていた。

悲しい。

けど、ふと夜空と星々の海を思い出す。

(いい日に亡くなることができたね)

不謹慎だと思うけど、そう思わずにはいられなかった。死を直視していると、涙で視界が歪みそうだったからだ。

(いい日に亡くなることができたね)

なんども、思い続けた。

それでも、歪み始めた。だから、何も考えないようにした。

思い続けている間に、霊柩車に運ばれている頃だった。すると、後ろからすすり泣く声が聞こえて少しびっくりした。誰かと言えば、母の兄だった。日頃から、小説を内容を想像しているからか、容易に想像できた。それを想像しただけでも、視界が歪みそうになる。

だから、もう、想像もやめ、感じることもやめた。


記念館に運ばれた。要は、葬儀場。

その道中でも、夜空を見て、いろんなことから目をそらしていた。


葬儀場では、葬儀について話し合った。

僕は、話を聞き流していたためよく覚えていない。

気づけば、朝の6時。

母にお通夜とお葬式の日程を確認すると、どうやら6日と7日になったらしい。


あまり、人が亡くなった実感が湧かなかった。


家に帰り、朝ごはんを寂しく食べた。

あまり、味がわからなかった。

朝ごはんを食べた後、また、葬儀場に向かった。


葬儀場には、おじいちゃんの遺体とおばあちゃんとその息子と母がいた。家族でいたので少しで申し訳ない気持ちになった。けど、みんな笑っていた。いや、笑えるようになっていた。くだらないことや、面白い話で笑えていた。

その話の中で、へそくりの話になった。

おじいちゃんの財布の中から出てきたのだった。

みんなでおじいちゃんらしいと笑いあっていた。


その後、おじいちゃんの化粧やら服装替えだかなんだかで一度部屋を出た。帰ってきた頃にはもう、亡くなったのだと一目でわかるような服装だった。

その服装に、その場にいた僕、兄、母、おばあちゃん。で武士の格好のように布製の足袋や手の甲を守るものや脛を守るものを葬儀の人の言われるがままつけていった。そして五人で棺桶に入れた。そこに、木で作られた杖、紙で作られた三途の川のお駄賃やらなんやらをつけたりしていった。当然、腐らないようにドライアイスも添えて。

終わった頃には、とても綺麗に見えた。


今度は葬儀の人が来てどのような葬儀にするのかの相談。とても、長い話し合いだった。


終わると、また家族での談笑が始まった。

その時間もつかの間、お客さんが来た。おじいちゃんの兄弟関係で縁がある人らしい。そのうちの一人がこう言った。

「今にも、起き上がってきそうだね」

それには、思わず心の中で同意してしまった。

確かに、そうだった。化粧をしているせいか普通に寝ているようだった。とても、永眠しているようには見えなかった。


その日の昼と夕ご飯はよく覚えていなかった。

その日から、お通夜の日まであまり記憶になかった。

ただ、いとこが来ていた。全員が女子だ。上が高校、その次が中学、下が小学。いとこもあまり実感が湧いていない模様だった。特に下の子。


お通夜

泣かなかった。それどころか、始まる前に母や兄らが写真を撮っていた。なんのって、お通夜舞台。仏壇?みたいなのを。おそらくあまり見ることはないからだろう。

本番では、前に出たりはせず。ただ普通に前に出てお辞儀等をしてお焼香をして席につく。それしかしなかった。僕からすると、少し物足りなかった。あまり、泣かない自分を泣かすようなことを期待していたのだろう。

お通夜が終わり、そのあと親族は他の部屋でご飯を食べた。

途中、さっと抜け出し写真を撮りに行った。

思い出のコルクボード。

母型の家族中心で作ったらしい。とても、綺麗にできていたので思わず。写真を撮ってしまった。

そして、仏壇?舞台?を撮った。

そしたら、左端に白い二つの線が拡大すると見えて取れた、何か気になったけど怖くなってそのままにした。

片付けはもちろん手伝った。ビールを一本持ち帰った人がいたりしていたがそれも、みんなで笑いあえていた。兄と母。母の兄とおばあちゃんは葬儀場に泊まっていった。正直、こういう場所で寝泊まりするのはどうかと思う。

帰り道は、父と二人。

途中、ファーストフード店のドライブスルーで軽く買っていった。帰って着替えて、風呂に入り軽く食べて直ぐに寝た。明日は、お葬式。正直、まだ実感が湧いていなかった。


お葬式はあまり好きじゃない。当たり前だけどいいたい気分だった。だって、ずるいから。泣かそうとしてくる。

「〜.........そういった人なのかもしれませんね...〜」

司会の人がこちらが用意した言葉を感情を込めてゆっくり語る。だから、好きじゃない。知らない人がおじいちゃんのなにを知っているのかと怒りが湧くからだ。でも、それを爆発させるより先に涙が溢れる。

涙が溢れたことで、怒りが静まり。心に実感を浸らせていく、いないと思えてきてしまう。

お葬式が進んでいくにつれ、実感と悲しさが襲ってくる。

「それでは、ご遺族のお言葉」

このプログラムの中には自分たち孫の言葉も入っている。

言う言葉は決めてあった。

そして本番では、しっかり、堂々と行こうと、決して目の前の故人前に恥じないように。声は震えても泣かないように。

兄が言葉をかける。いや、語りかけている。泣きながら、長い文章を読んで語りかけている。自分にはあんなに長い文章を読むことすらできない。

いとこの姉が直筆手紙を読み上げ語る。泣きながら。

直筆でなんて自分にはできない。

年の順で来ているので次は自分。

「おじいちゃん、も、もっと話して、いろんなところへ行って、た、楽しい思い出作りたかったよ。今までありがとう」

声は震えても堂々と構えることができたと思う。

これも一つの成長を見せつけることができたかな。

泣き虫な自分が兄や、いとこの姉みたいに泣いてないよ、って。

いとこの妹の二人が言葉をかける。語るまでにはいかないけど一言。添えていく。

言葉をかけ終わり、席に着いた頃にはやっぱり目には涙が浮かんでいた。すぐにでも欠損しそうな涙のダムは

「暖かいお言葉ありがとうございました、故人も喜んでいることでしょう」

の言葉で欠損した。

抑えられなかった。苦しい。悔しい。

泣いていることであまり状況が読み込めないが、外は向かうらしく、僕は花を持って外へ出る。

ダムの水は火葬場行きのバスに乗るまで流れ続けた。


バスの中で僕はおじいちゃんとの思い出を探したがあまりなかった。自分を押し殺して過ごし始めてからは話すことも減っていた。だから、あまり思い出がなかった。最後の話したのも亡くなる一日前だったはず。

悔しかった。


火葬場に着いてからは、いたっていつも通り冷静で居られた。


少し、遅れてすみません。

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