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第五話 二人目はピュアソルジャー

 続いて二人目の男性です。


「ダグ・アチェルっす……よろしくお願いします」


 背が高く、大柄。一目で鍛えていることが分かる体つきです。屈強な若者はぺこりと頭を下げ、恥ずかしそうに目を泳がせました。いかにも女性に慣れていない感じがします。シャイボーイです。

 相手も緊張していることが分かるので、わたしも少し気が楽でした。なんとかお話しできそうです。


 わたしは気になっていたことを尋ねることにしました。彼の名前には聞き覚えがあります。それにこの見るからに武闘派な容姿……。


「えぇっと……もしかして、去年の武闘大会で優勝された方ですか?」


 うっす、とダグさんは頷きました。


 毎年、グリトンでは年若い男性たちが参加する武闘大会が行われています。腕のいい者を国のお抱え兵士としてスカウトするためです。


 グリトンは戦争の心配がほとんどありません。

 妖精の加護は有名ですし、グリトンに攻め込む旨味はありません。食糧難のときの保険として仲良くしておこうという国ばかりです。

 それに、今では各国の王侯貴族の療養地みたいになっていますから、迂闊に手を出せないようです。


 しかし、いくらグリトンが平和でのほほんとした国でも兵士は必要です。

 王族の護衛や犯罪者の検挙など、治安の維持には強い者がいなくてはなりません。

 そのための武闘大会の名を借りたスカウトです。一から訓練して育てるお金を出し渋り、才能ある者を効率よく召し抱えるため……というのは内緒です。


 ダグさんは現在二十歳。去年の大会で優勝してからは、兵士としてお城で働いていらっしゃるとのこと。 新米とは思えないほど活躍しているようですね。


「彼は公務をさぼるレザン王子を捕まえられる唯一無二の兵士です」


「まぁ、それはすごいです……」


 エミルの説明では、他にも城下の見回りの際、スリや芋泥棒を捕まえているそうです。彼が兵士になってから犯罪発生率が激減していて、国民の皆様に大変頼りにされているとか。


 ダグさんは十二歳でグリトンを出て以来、フリーの傭兵を生業とし、各国を渡り歩いてきた歴戦の猛者とのこと。しかし二年前にグリトン王国へ帰ってきたそうです。ダグさんがお強いのも納得です。


「わたしも決勝戦をこっそり観戦しておりました。素人のわたしでも見事な剣術だと分かりましたよ。流れるような動きから目にも止まらぬ速さでスパっと」


「恐縮っす」


 なんというか、格が違いました。

 他の参加者の動きがお遊戯に見えたくらいです。

 ダグさんはグリトンで一番強い男性です。圧倒的な強さは時に恐怖を生みますが、彼の戦い方は見た者に憧れを抱かせる類のものでした。

 彼が王婿になれば、国民は熱狂するでしょう。


 ダグさんにも無礼講だと説明して、わたしはお見合いに参加した理由を尋ねました。


「オレは……国王陛下に恩があります。姫様をお守りすることでそれをお返しできたらと」


 彼は口下手なりに一生懸命説明してくれました。


 二年前、ダグさんはとある戦場で活躍していました。しかし、あるとき味方側の陣で飲み水に毒が盛られるという事件が発生、たくさんの兵士が戦闘不能に陥ってしまいます。敵国の間者の仕業ですね、分かります。そして疑いをかけられたのがダグさん。もちろん濡れ衣でした。

 ダグさんは命からがら逃げ出し、なんとかグリトンへ帰国しました。


「面倒事を抱えて帰国したオレを、陛下は即座に助けてくれたっす。オレを引き渡せと使者に言われても頑なに拒否して……相手はかなり大きな国だったのに、オレの言い分を信じてくれたんです」


 やだ、お父様ったらかっこいい。

 実は頼られると張り切る性分の持ち主なのです。

 でも、どうせ妖精たちに真実を聞いたんでしょう。「ウチの子やってないって妖精が言ってるもん」の一言で使者を追い返す姿が目に浮かびました。

 メルヘン国王のメンヘラ対応と囁かれていないといいんですけど。


 とにかくダグさんはそのときのご恩を返すため、今回のお見合いを受けたそうです。

 

「はっきり言って、この国は危機感がなさすぎるっす。近衛の質も悪い。王子が城から誰にも見つからずに逃亡できるって……ダメだと思います」


 オレが当番だったら逃がさなかったのに、とダグさんは悔しそうに拳を震わせます。


「う……そうですね。でも、兄には妖精の味方がいるので仕方ないかと」


 警備の隙を教えてもらったりできるんでしょう。いえ、隙があるのがおかしいんですけど。

 ダグさんは額に汗をかきながら、真っ直ぐわたしを見つめました。


「でも、プラム姫様は、妖精に守られてない。心配っす。何かあったとき、オレがすぐに盾になれる位置にいたいんです。……姫様の、お、夫なんて、オレには過ぎた大役という自覚はありますが、新米のオレが護衛隊長になるには時間がかかりすぎるし、ただの臣下ではおそばにいられない場面もある……その間に、何かあったらと思うと……オレはっ」


 ダグさんは呻き声を漏らしました。苦悶の表情です。顔が真っ赤ですが、大丈夫でしょうか。

 恩人の娘を守るためにここまで思いつめるなんて、生真面目な方なのでしょう。

 それから二、三の質疑応答をして、最後に何か言いたいことはないか問いかけました。


「その、オレは姫様の笛の音が……」


「笛? ああ、ピルートのことですか?」


 わたしも一応グリトン王族です。舞夜の宴のために、出し物の練習は欠かしません。

 踊ったり歌ったりはしんどいので、管が短くて吹きやすいピルートという横笛をたしなんでおります。

 週に何度か城の離れでピロピロさせてます。ちなみに離れには妖精が近づかないのです。ほら、出し物の中身を知ってしまったら、宴が面白くなくなるので。お父様もお兄様もそこで演芸の練習をしていました。


 ダグさんは離れの警備当番のとき、わたしの演奏を耳にしたそうです。

 六歳まではお母様に直接教えていただいていたんですけど……今は独学です。変な演奏をしているのかもしれません。それとも下手すぎて耳障りでしょうか。


「いえ、あの……姫様の笛の音は、とても綺麗っす。あんな綺麗な音を出せる人がダメ姫と呼ばれるなんて、絶対おかしいと思っていて、一度お会いしてみたかったんです。やっぱり姫様は笛の音のイメージ通りの方でした……」

 

 見た目とは裏腹にピュアな波動が出ています。


 わたしはまたも照れてしまいました。ダグさんは心にもないお世辞が言えるような人には見えません。 



 ダグさんが退室した後、エミルは無言でした。

 ちょっと褒められたくらいで調子に乗るなと暗に言われている気がしました。

 


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