閑話 私のマスター
朝。
日の出と共に起動する。
いえ、”目を覚ます”と言わないとマスターに叱られてしまいますね。
......もう長い間マスターのお声を聞いていませんが。
私の名は〈アリア〉。
偉大なるマスターによって創り出された”自動人形。
私の仕事はマスターの身の回りのお世話と、この《塔》の管理。
主にマスターのお食事を準備したり、《塔》の掃除です。
掃除と言っても、ここはマスターが創り出した様々な道具や魔導具によってほとんど汚れることもないので、
大した労力も必要としませんが。
しかし、ここ数十年それらの働きが悪くなってきているようです。
本来、マスターの創り出した物の能力が落ちることはありません。そのように創り出されているのですから。
でも、現実にその能力は落ちてきている。
理由ははっきりしています。
”偉大なるマスターの長期間にわたる不在”
其れによって、浮遊魔素のリフレッシュが出来なくなり、機能不全になっているのです。
100年200年ならばこんな事は起こりません。
マスターがお姿を隠されてから450年近く経ちました。
普通に「お休み。」と挨拶をされて、自室でお休みになられたはずなのに。
それ以降、お姿を拝見できないまま現在に至ります。
私達もマスターを必死に探しました。
あ、私達と言うのはこの《塔》には私以外にあと2人の従者が居ます。
1人は女性タイプの〈レスティア〉。
1人は男性タイプの〈ウィルカ〉。
それぞれが《塔》の中も外も探し回りました。
しかし、発見するどころかその痕跡すら見つけることが出来ませんでした。
その2人も、100年ほど前に眠りにつきました。
私達自動人形は、浮遊魔素でも活動できますがメインは魔力で動きます。
それはマスターから供給されるのですが、現在は其れが出来ません。
この《塔》にはマスターの設置された魔力水晶があり、其れによって活動しています。
しかし、クリスタルに蓄えられた魔力は限りがある上に、3人の活動エネルギーなので消耗が回復よりも上回ってしまっていたのです。
このままでは3人とも機能停止になってしまう。
そうなってはこの場所の管理をする者が居なくなってしまう。
其れを回避するために、2人が眠りについてくれたのです。
1人になってから100年ほど経過し、クリスタルのマナプールもかなり減少して私の活動にも微妙に影響が出始めてしまいました。
このままでは其れほど遠くない未来に、私も活動停止の時を迎えるでしょう。
その前に、再びマスターにお目に掛かりたかったな。
其れから数日後。
突然、クリスタルのマナプールが満タンになりました。
其れと同時に、マスターの寝室に巨大な魔力の反応が現れました。
!この魔力は!
私は飛び起き、急いでマスターの寝室へと向かいました。
期待と不安を感じ少し躊躇しましたが、意を決して寝室の扉をノックします。
コンコンコン
「どうぞ、開いてるよ。」
中から、もう聞くことは出来ないと思っていた懐かしい声が。
カチャ。
扉を開いて見えた先には。
「......マス......ター......?」
そのお姿を捜して止まなかった。
偉大なる”我が御主人様”が。
ベッドに座り、日の光に照らされていました。