......なにがなにやら
「え~~~っと......。」
風祭 火凪は困惑していた。
そりゃもう16年の人生の中でも最高の困惑っぷりである。
学校から帰って御飯を食べ、お風呂に入って自分の部屋に戻った後ガッツリプレイする為にログイン前に1時間ほど仮眠しようとアラームをセットしてベッドで眠り、アラームの音で目を覚ましたら見知らぬ天井が目に入ったのだから仕方がないことかもしれない。
「ん~~~ここどこだろう......ん?」
何となく頭が覚醒してきた。周りを見て確認する余裕が出来る程に。
確認して分かったことは1つ。今行る場所が全く知らない場所じゃないってことだ。......現実にはあり得ない場所でもあるが。何故ならそこは......
「ここって......《塔》の僕の部屋?」
はっきりと覚醒して分かったこと。それは今居る場所が火凪の所有するメインホームである《塔》の寝室だった。
《塔》を所有していると言ってもお金持ちというわけじゃない。それは、火凪が起きたらログインしようと思っていたVRMMORPGの中の話だ。
かの”InfinityCreators(通称IC)”が送り出した大人気VRMMORPG。広大な世界を舞台に剣や魔法、魔物やドラゴンの生息する《アレスティア》と呼ばれる世界を時には仲間と、時には一人で冒険する王道のゲームだ。もちろん火凪もやりこんでいるプレイヤーの1人で、ほぼすべてのアビリティがカンストしているというトッププレイヤーでもある。
ゲームを進めていると誰でもマイホームを持つことが出来るようになるが、火凪はその中でも数少ない《領地持ち》と呼ばれるプレイヤーだ。どうやら今目を覚ました場所は、領地である《クラストル大森林》にある《翡翠の塔》の寝室だ。
「確かにここでログアウトしたけど......まだログインしてないんだけどなぁ。それに、風の感触とかが明らかに違うし......まさか転生?いや、赤ん坊じゃないみたいだからどっちかって言うと転移かな?」
普通なら大混乱になるような事態に遭遇しているにも関わらず、冷静に分析している。なかなか肝が据わっている少年である。ふと、そばにある鏡を覗いてみた。そこに映っている姿は......
「あぁ、やっぱり。」
《アレスティア・ストーリーズ》で自分が育てていたキャラ”ヒナギ”の物だった。
緑掛かった銀の前髪の一部に緑のメッシュが入り、後ろは背中の中程あたりまであるほど長い。
エメラルドに輝く瞳に、美少年とも美少女ともとれる中性的な容貌。(リアルと違うのは髪の色と長さに瞳の色で、容姿は一切いじっていない。お陰で男女共に密かにファンクラブや親衛隊なる物があったりするが、本人は知らない。)
そうこうしていると、どうやらこの部屋へ向かって居るであろう気配を捉えた。アビリティ【気配察知】の効果だろう。敵意や害意は感じない。しかし、何やら焦っているような感じのする速度だ。
どんどん近づいてきた気配が程なく扉の前に到着し立ち止まった。
コンコンコン。
少し間を空けて扉がノックされた。
「どうぞ、開いてるよ。」
カチャ。
驚いたような気配の後、又少し間を空けて扉が開かれた。その先にいたのは......
「......マス......ター......?」
どこか呆然とした表情の美少女だった。