■八話
side:月見里 司
……なんかもの凄い人数の人達に頭を下げられているんですが、僕は一体どうすればいいのでしょうか。
イケメン君が何やら跪いたと思ったら、その場にいた全員が事前に打ち合わせをしていたかのごとく、一斉に跪いたのだ。
身分に上下の少ない日本人にとっては、その光景は軽くホラーである。
それにしてもすっごい息ぴったりだなこの人ら。
長縄とか三十人三十一脚とかやったら、結構いい線行くんじゃないだろうか。
人数は三十人どころの話じゃないけど。百人ぐらいいるけど。
……それにしても、誰も喋らない。
もしかして、「面を上げーい」とか言わなきゃならない系?
それはなんか現代人としてよくない気がするんだけど、するべきなのかこれ。
この人達は僕に一体何を求めているんだ。神か。それとも殿か。むしろ殿なのか?
てゆうか正直この場の空気に耐えられません。
僕が『神』から『殿』へのジョブチェンを本気で悩み始めた時、イケメン君がようやく火口を切った。
「恐れながら申し上げます。『勝利の神』様に対する数々のご無礼をお許しください。我々ベルベドール国国民一同、貴方様がおいでになるのを心よりお待ちしておりました。『勝利の神』様のご不興を買ってしまい、真に申し訳ございません。如何なる罰もお受けします。どうか、我々にお力を」
イケメン君がスラスラとそれっぽい言葉が並べ立てていく。
いやー、宗教とかがちゃんとしてる国ってさすがだね。
宗教の自由な日本人としては、咄嗟にこんなスラスラ挨拶みたいなこと言うのなんて多分無理だし、内容だって「それっぽい」としか説明しようがないし。
てゆうか開口一番に謝罪っスか。
数々の無礼って、この人達何かしたっけ?
個人的にイケメン君のお姫様抱っこにはビビッたけど、他なんかあった?
イケメンである罪とか?いや、僕は別にイケメンが憎いわけではないけども。
……さて、イケメン君言うだけ言ってまた黙っちゃったんだけど。
さすがにこれは何か言わないとマズイよなぁ……
下手にそれっぽいこと言おうとしたら絶対自爆そうな気がする。もしくは誤爆。
例えば、大真面目な顔で
「今回のことは目を瞑ろう。しかし以後このような真似をすれば……っは……し、静まれ……俺の腕よ……怒りを静めろ!!うおおおおおおおお!!」
とか言ぎゃあああああああああああ痛い痛い痛い痛い!!
自分で考えといてなんだが、とりあえず強そうに見せとけって魂胆が見え見えだろ!
どこの邪●眼だよ!アイアムノット中二病!!ワタシは正常!
……駄目だ、無理にそれっぽいこと言おうとしたらその場で爆死できる。てゆうか、する。
とりあえず無難に行こう。そう無難に。
てか僕は神(らしい)から、多少のことは勝手に向こうが補正してくれるでしょ。
「えーと……あの、無礼とか、その、別に思ってないんで、顔を上げてもらえませんか?」
特に何も考えずに言ったら、なんか挙動不審な人になってしまった。
おそるおそる、といった体でこの場にいる百人強が顔を上げる。
……あれ、見える限りでも全員が驚きの表情を浮かべているのは何故だろう。
大勢の人間に見られていることに今更ながら居心地の悪さを感じ、なるべく誰とも目が合わないよう視線をそらしながら、少し姿勢を正す。
しかしずっとそうしているわけにもいかないので、自分の一番にいるイケメン君に、そろりと目を合わせてみる。
表情は変わらずともイケメン君の顔が青ざめたような気がするんだけど、やっぱり神と対面するってのは緊張すんのかね。
僕はほぼ無宗教に近い仏教徒だったから、あんまり神様を崇めるって意識がないし、神と言うと画面の向こうとかで散々見てきたから、あんまり有難みがなかったりする。
そもそもリアルで始めて会った神が神だったわけだし、あんまりどころか有難みもへったくれもなかったりする。
価値観の違いって怖いネ☆
「あの、いくつか訊きたいんですけど、ここは人間側ですか?」
周りにいる人達はどう見ても人間にしか見えないけど、もし魔族の外見が人間と大差ないのだとしたら、一概にもここは人間の側とは言えない。
イケメン君がまた頭を下げ、緊張を帯びた声で答える。
「は、ここは我々人の大陸『アスタロッド』に存在する、王国『ベルベドール』にございます。そしてここは国の神殿の最奥にある『召喚』を行うための『儀式の間』。『勝利の神』様に『召喚』に応じていただき、我々一同感激しております」
へー、人間の王国はベルベドールって言うんだ。
とりあえずここが人間側だってことはわかった。
あと話の流れ的にベクトリアって僕のことだよね?他に思い当たらないし。
なんか女の人みたいな名前だなー。ヴィクトリアみたいな。確かイギリスの女王様の名前だったはず。
ベクトリアは多分神様の名前なんだろうけど。
それにしても固いなー、このイケメン君。
向こうにしてみれば当然なのかもしれないけど、こちらとしてはまだ自分が『神』っていう自覚はないわけだし、あんまり崇められてもむず痒いとゆうか、居た堪れないとゆうか。
ぶっちゃけ恥ずかしいです。
価値観の違いって怖いネ☆
「あー……時にイケメン君」
「は…………え。あ、わっ、私ですか?」
おお動揺しとる動揺しとる。
まあ、『神様』にイケメン君と呼ばれるとは思わなかったのだろう。
「えーと、お名前は?」
「ベルベドール王国勇者、クリストフ・ミハエラ・シュヴィエと申します」
……………………クリストフ。
「…………賢者?」
「え?」
「あ、いや……何でもないデス……」
しかしイケメン君はやっぱり勇者だったか。
いかにもな見てくれしてるしね。
「名乗るのが遅れてしまい、申し訳ありませんでした。そしてこちらが、我がベルベドール王国の第一王女にございます」
イケメンで勇者で賢者なクリストフがそう言うと、少しだけ離れたところで膝を折っていた長い銀髪の女の子が、既に下げている頭を一層深くした。
「ベルベドール王国第一王女兼姫巫女、マーガレット・ティオ・エリザベス・ベルベドールでございます。権力に身をやつした卑しい身ではございますが、恐れ多くも我が国の代表として、『勝利の神』様のご来訪を歓迎させていただきます」
…………マーガレット……エリザベス…………ベル……ベ……
「…………ペルソナ?」
「はい?」
「何デモナイデス」
二次元のキャラクターの名前しかないのか、この世界は……
しかもティオって部分はまさかテオ●アか?いや、さすがに無理があるか。
そもそも、この世界の住民がペル●ナとかサンホ●とか知ってるはずないし。
てゆうかこの王女様今凄いこと言わなかったか?
「権力に身をやつした卑しい身」とか、王族の言うセリフじゃねぇだろ。
あれかな、神の前では権力は欲の象徴とかなんだろうか。
それにしても、王女さんもかなりの美人さんだなー。
アクアマリンみたいな綺麗な水色の目が、驚きと疑問の色を浮かべてこちらを見つめている。
さて、イケメン勇者君と美人王女さんの名前は聞いたから、こっちも名乗らないとね。
僕はよっこいしょとその場に立ち上がる。
目が回るのは治ったし、吐き気も大分治まっている。
「えーと、人間側の皆さん始めまして。ベクトリア?の、月見里司です。ちなみに司が名前です。この世界に関してはわからないことだらけだと思いますが、よろしくお願いします」
そう言って、頭を下げる。
うん、礼儀を重んじるのは日本人の美徳だよね。
それを見て慌てたのはクリストフ達跪き隊(たった今命名)の皆さん。
「な!そんな恐れ多い!どうかお顔をお上げください『勝利の神』様!」
「おやめください『勝利の神』様!貴方様が我々にそこまでなさる必要はございません!」
「お許しを!どうか罪深い我らにお許しを!お許しを!」
「お許しを『勝利の神』様ああああああああ!」
……ちょ、なんかこれ僕が悪者みたいじゃんか。
なんか泣き崩れる人までいるし。リアルにorzのポーズになってるよ。
僕としては普通に挨拶しただけなのに……信奉心って怖ぇ。
あーもう、しょうがないなぁ。
「とりあえず皆さん落ち着いてください。僕が頭を下げたのにはちゃんと理由があるんです」
とりあえず理由をこじつけて落ち着かせることにする。
僕が喋り始めた途端、水を打ったように静かになる場。
……うぅ、慣れないなぁ。
「僕をここへ引っ張り込んだのは貴方ですよね?」
「は、はい…………あ!」
クリストフに向けてそう問うと、クリストフは僕の左手に視線を向け、ざっと青ざめた。
うん?と思って左手に視線を落とすと、左手首にはくっきりと手形の痣が浮かび上がっていた。
あちゃー痣んなっちゃったか、と思っていると、クリストフが知り合いの刑事さんに助手の正体がばれた時の某大食い女子高生探偵ばりに洗練された土下座をした。
いや、そんなんと比べちゃ悪いんだろうけど。
「大変申し訳ございません!!如何なる罰もお受けします!どうか、この国の民ばかりは見捨てないでください!」
うおぅ、びっくりした(汗
僕としてはこれぐらいどうってことないし、モノにもらった能力で治せばいいんだけど、ここじゃあちょっとでも神様に失礼があると、なんかもうアウトっぽい。
「いや、大丈夫ですから!別に見捨てませんし、罰とかもないですから!顔上げてください!」
そう言っても、クリストフは顔を上げない。
……しょうがない、このまま話進めよう。
「貴方が僕を助けてくれたんですよ」
クリストフが、え、と声にならない声を上げ、顔を上げる。
「ここに来る前に、僕は人間側と魔族側の双方の召還に引っ張り合われる形になって、かなりのダメージを受けていたんです。それを、貴方がここに引っ張り込んで助けてくれたんですよ」
だから僕の腕は気にしないで、と、笑いかける。
とりあえず、嘘は言ってないはず。
全部に確信があるわけじゃないけど、大方こんなところだろう。
ダメージも実はそんなに重いもんでもなかったけど、少しくらいの誇張はあっても悪くないと考えた。
クリストフはというと、本当に落っこちるんじゃないかと思う程目を見開いて、ゆっくりとうつむいて祈るように手を組んだ。
とりあえず、土下座はやめてくれたようで何よりです。
「……なんと……慈悲深い女神様でありましょうか……」
………………パードゥン?
「……ねぇ、今何つったよ?」
「え?」
いきなり口調の変わった僕に、クリストフが驚いて顔を上げるが、そんなこと構うもんか。
聞き捨てならん言葉が聞こえたぞ今。
「いや、だから、何つったよ?って」
「えぇと……なんと慈悲深い……」
「その次」
「女神様でありましょうか、と……」
ここでもかああああああああああああああああああ!!
僕は盛大に溜息をつきたくなるのを我慢して、クリストフに向き直る。
そしてなるべく平静を装いつつ、自分を指差して見せる。
「僕、男」
ようやく勘違いを正せた司君。
お疲れ様です。




