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Vectoria  作者: T.M.H.F.B
5/10

■五話

今回は司君以外の視点です。


    side:勇者クリス




儀式の時間が刻々と近づいてくる。



大陸『アスタロッド』に存在する人間の王国『ベルベドール』。


その王国に仕える勇者、クリストフ・ミハエラ・シュヴィエは、着々と召喚の準備が進められる儀式の間で、緊張の面持ちで佇む幼馴染に優しく声をかけた。


「大丈夫だ、きっと上手くいく。君ならできるさ」


幼馴染の少女は、そわそわと落ち着かない様子でクリストフを見返す。


少女の名前は、マーガレット・ティオ・エリザベス・ベルベドール。


王国ベルベドールの第一王女であり、その類稀なる魔術の才から、今回の『召喚』では彼女が召喚に必要な魔力の主軸を務めることになったのだ。

言うなれば姫巫女である。


安心させるようにクリストフが笑いかけると、彼女は逆に困ったように目尻を下げた。


「でも私、『召喚』の儀式は始めてなんですもの。上手くやれるかどうか……今までと同じように、召喚に応じていただけないだけならまだいいのですが、万が一魔族側が召喚に成功してしまったらと思うと……」


今回の『召喚』は、人間側と魔族側で全くの同時刻に行われる。


これは前例のないことである。


今までの『召喚』は常に戦況が自分達にとって不利な状況になった際に行われた。

しかし今回の戦争は、お互いにとって有利でも不利でもなく、これまた前例がない程のジリ貧の戦況であった。



そこで行われるのが“同時召喚”である。



始まりは、現在の戦況を打破する策はないかと、国王が半ばヤケクソ気味で『召喚』を決定したこと。

その情報が何故だか魔族側にも伝わり、魔族側も負けじと『召喚』を決行するらしい。

元々、人間魔族共にいたちごっこのような現状に辟易としていたところであった。


そう言った理由から、『同時召喚』は決行されることになった。


「もっと自身を持つんだ、マギー。君の実力なら、俺達にとって悪い状況にはならないさ。神はきっと、俺達の味方をしてくれる」


「クリス……」


クリストフとマーガッレトは、幼馴染ということがあり、非常に仲がよかった。

幼い頃は周囲の目も気にせず、歳相応に遊んだものだった。


しかし、どれ程仲がよかろうとも身分の差は二人にとって障害になった。

一介の騎士の家系の出でしかなかったクリストフは、王女であり幼馴染であるマーガレットを支えたい一心で、努力に努力を重ね勇者の座にまで登り詰めたのである。


勇者とは、戦力の要のことである。

ともすれば周囲の人間からは一目置かれる存在になるわけで、その地位を手に入れるには中半かな実力や信念では到底無理な話であった。


しかし、クリストフはそれを成し遂げた。


全ては大事な幼馴染の支えとなるためである。


「さあ、もう儀式が始まる。行かないと」


そう言って促すが、幼馴染の少女は未だ不安げな様子である。


クリストフは一つ息をつくと、あえて明るく笑いかけて見せた。


「大丈夫だって。君は俺の幼馴染なんだから」


それを聞くと、マーガレットは少しだけ安心したように微笑んだ。

その様子に、少しだけホッとする。


支えると決めておきながら、大した手助けもできない自分が歯がゆい。


名残惜しそうに袖を掴んでいた、自分よりも小さな手が離れる。


「それじゃあ……行って、来ます」


「行ってらっしゃい。……頑張って」


彼女は“祭壇”へ向かって行った。



儀式の間は神殿の最奥にあり、神殿は聖域と呼ばれる洞の入り口に繋がるように建てられている。

そして当然のごとく、神殿の最奥とは言うまでもなく聖域である洞の中である。


洞の奥には滝があり、絶え間なく澄んだ水が流れ続け、その場所で『儀式』が行われる。

祭壇とは、その場所にある滝のことである。


『儀式』は国の神官総出と魔力の主軸となる巫女によって行われ、初めて『神』が現れた時を除き、一度も成功していないと言う。



本来、『儀式』には神官達と巫女しか参加はしない。

そこを、クリストフは半ば無理矢理参加を申し出たのである。


マーガッレトは初めて『召喚』をする。不安でないわけがないだろう。

少しでも、彼女の助けになりたかった。


とは言え、勇者と言えども魔術や儀式行為に関しては魔術師や神官程秀でてはいないため、『儀式』の間にできることと言えば、邪魔にならないように脇で見ていることぐらいである。



「……それではこれより、『召喚の儀』を始めます」



緊張を帯びた鈴を鳴らすような声が、自然が作り出した壁や天井に反響する。


それと共に、この空間の魔力の濃度が急激に上がった。



「――我、魂をここに刻む者。神に清き精神(こころ)を誓う者なり――」



マーガレットが祭壇の前に跪き、召喚のための詠唱を始める。


滝の中腹に黄金(きん)色の魔方陣が浮かび上がり、姫巫女の声に反応するかのように輝いた。


そして詠唱が進むに連れ、神官達の集中は高まり、空気が魔力によってビリビリと振るえる。



――――『召喚』がこれ程とは……。



この空間に呑まれる。圧倒される。



言葉通り、この場は“聖域”であった。



クリストフは息をするのも忘れたかのように、その光景に見入っていた。



「――我らが望むは勝利。我らが嘆くは敗北。我が声に応えたまえ、その身に纏いし黒の――」



そして、それは詠唱が中盤まで差し掛かった時に起こった。





突然、魔方陣が強烈な光を放ち始めたのだ。





「!?」


「何!?」


「これは!?」


突然の出来事に、神官達が驚愕の声を上げる。

マーガレットも驚きに目を見開き、詠唱を止めてしまった。


その途端、一気に緊張が四散し、空気中の魔力が失われる。

それと共に、魔方陣は急速にその輝きを失って行く。



このままではまずい。



「マギー、詠唱を!」


咄嗟にそう叫ぶと、マーガレットはハッと我に返り、慌てて再度詠唱を始めた。

再び空間に魔力が満ちる。


しかし、先程と同様の集中は得られず、魔方陣が輝きを失うのは止まらなかった。


いくら詠唱を進めても、それが覆ることはない。

マーガレットの表情には明らかな焦燥の色が見えた。

神官達にも、絶望に似た表情が広がっていく。



「――――くそっ!」



気が付けば、クリストフは脛ほどまでの深さの滝壺に飛び込み、魔方陣へ駆け寄っていた。


「勇者殿!?」


「勇者殿!一体何を……」


静止の声が上がるのも構わず、今だ光を失い続ける魔法神に触れる。


何故そうしたのかはわからない。

そのようなことをしても、この状況を打破できないことは火を見るよりも明らかであったはずなのに。


それでも、何かしなければと思った。



そして、





触れた右手が魔方陣に吸い込まれた。





「!?」


滝に手を突っ込んだのではない。

右手はただ空気を掻くのみで、そこに水の感触はない。



まるで、魔方陣より向こう側に別の空間が広がっているような……



「クリス!?一体何をしているのです!?」


「いいから詠唱を!早く!」


突然のその行動に驚愕の声を上げるマーガレットにそれだけ言うと、クリストフはひたすら魔方陣に呑まれた右手で、得たいの知れない空間を(まさぐ)る。



――頼む、まだ消えないでくれ!



魔方陣の輝きがほとんど失われた時、右手に何かが触れた。


反射的に、力強くそれを掴む。




その瞬間、再び魔方陣が強烈に光を放った。




それと同時にクリストフは何か強力な力で弾き飛ばされ、滝壺に仰向けに倒れ込んだ。


「うわっ!」


バシャン!と音を立てて水飛沫が上がる。

幸い、さほど深さはないため溺れることはなかった。


「クリス!」


マーガレットが蒼白な顔で駆け寄ってくるが、クリストフは彼女に応えることも、安心するよう微笑みかけることもできなかった。




クリストフの右手には、人の腕が握られていた。




腕は肩に続き、肩には首が続き、首は頭部に続く。




視界に、闇と見紛う程の黒が広がった。


















水に浸かったクリストフに覆い重なるように、一人の黒髪の少女(・・)が倒れていた。













※1/4追記 クリストフの一人称を変更いたしました。

最初からこっちのつもりだったのに……なんてこった。

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