■三話
「そんじゃま、早速能力の方を添付しようか」
そう言って、自称神の人影は僕の方へスッと右手を差し向ける。
しかし添付って……メールに写真載っけるようなもんか?
案外簡単に能力とやらは付けられるらしい。
それでもさっき死に際を見せられた時みたいな不意打ちはごめんなので、一応心の準備はしておく。
実際、チート能力を手に入れられることに浮かれていないと言えば嘘になるしな。
浮かれて床を踏み抜いて大怪我するような目には遭いたくない。
「君に能力が入るのは一瞬だけど、かなりの情報量だから、その一瞬だけでもそれなりの負荷がかかると思う。どうなるかはわかんないけど、数秒意識が飛ぶぐらいのことは覚悟しといて。それから、倒れそうになったら無理せずそのまま倒れなさい。立ったままの方が危ないし、ここ床ないから痛くないし」
…………どうやら案外簡単なのではないらしい。
しかも不意打ちどころの話ではないらしい。
自称神は僕の返事を待たずに、実に楽しそうに両手を振り上げた。
「それじゃあ、いくぞ! パヰルダーオン!! 」
ちょっと待て!そのネタは最近の子には通じないぞ!
しかし、そのツッコミどころ満載な掛け声と共に真っ黒な両手が振り下ろされた瞬間、
雷が 落ちた 。
そう錯覚する程の、轟音と閃光。
……しかし、予想に反してその衝撃は極小規模の物で、一瞬後には視覚と聴覚は実にクリアな状態に戻っていた。
…………何これ、身構えて損した気分。
目の前では、自称神が驚いたような雰囲気で立っていた。
「……あれ、大したこと無さ気?」
うん。超ピンピンしてる。
「へぇー……どうやら当たりどころの話じゃないね。面白くなってきた」
……なんだよ面白くなってきたって。
あとニヤニヤすんな気持ち悪い。いや、顔はないんだけどさ。
「なんかなんともなさそうだし、さっそくだけど力を使う練習してみようか。……そうだねぇ、じゃあまずは君の眼鏡を出してみよう」
え?と思って顔に手をやると、確かにそこに愛用の眼鏡の存在はなかった。
そう言えば死んだ時と同じ状態でここにいるなら、眼鏡はかけてなくて当然だ。
随分視界がクリアだから気が付かなかったけど。
…………………………あれ?
「あのさ、今眼鏡かけてないのに視界めっちゃクリアなんだけど」
「ああ、君が今魂の状態だから。異世界に飛ばす時に新しい肉体に入れるんだけど、そしたら視力は戻っちゃうから眼鏡は必要だよ.」
マジか。視力補正ぐらいしてくれたっていいじゃないの……
まあでも、いきなり体質が変わっても違和感あるから、それでいいか。
「さて、君の能力に必要なのは基本的にイメージ力だ。逆に言えば、イメージさえできればほぼなんでもできる。ただ、あくまで『ほぼ』だ。死者の蘇生とかは無理。……それじゃ、君の好きなように眼鏡が現れることを想像してごらん」
やれやれ、面倒な……
まあ、能力使うのは初めてだし、変に凝る必要はないかと、僕は愛用の眼鏡が特にエフェクトもなく湧いて出る様を想像する。
すると、想像した通りに、自分の眼鏡が目の前に現れた。
………おお、便利。
手に取ってまじまじと見つめてみる。
見ようによっては伊達眼鏡にも見えなくもない、黒の少し太めのフレームのオシャレ(笑)眼鏡。
大学入学の少し前に、イメチェンよろしく買い換えた物だ。
かけてみると、しっくりと自分の顔に収まる。
うん、紛れもなく一年半連れ添って来たMy眼鏡だ。
自称神の人影に目を向けると、やつは満足そうにうんうんと頷くいておもむろに右手の親指を立ててグッと前に突き出した。
「眼鏡男子萌え!!!」
どーでもええわ!!
ある種のトラウマワードを口にされて額に青筋を浮かべながら、僕は人影に……いや、自称神に……いや自称神の人影……僕は新世界のかm
ええいもう面倒臭ぇ!
「その発言には一先ず目ぇ瞑っとくけど……あのさ、なんて呼べばいい?」
「あん?」
サムズアップしていた手で自分を指差し、首を傾げる黒い自称神に、「そうや、お前やお前」と思いながら頷いて見せる。
「うーん、正直なんでもいいんだけど……人によっては創造神やら全能神やら呼んでくれてたりするんだけど……ああそうそう、私に中二病かと訊いたもう一人は、私のこと『クリエイター』って方で呼ぶよ」
……それは言外に『クリエイター』って呼べってことか?
にしても大層な名前……ってかこれ名前なのか?
神だからそんなもんなのかもしれないけど。
…………なんか要求通りに呼んでやるのも癪だな。
「…………モノ」
「お?」
「あんたの外見と、この空間の対比で『モノトーン』から『モノ』。もしくはギリシャ語の一。神なんだし、始まり的な意味で」
安直な名前だけど、響き的には悪くないからまあよしとする。
自称神はキョトンとしたような顔(ないけど)を僕に向けると、
にわかに笑い出した。
え、何、今の発言に笑うところあった?
しばらく困惑していると、自称神は気が済んだのか笑いを治めた。
「…………いやー、君最高。そんなん言われたの初めてだわ。オッケー、いいよ。君は私のこと『モノ』って呼びなさい」
こうして、僕の中で自称神の呼称は、めでたく『モノ』に決まった。
……こいつの笑いのツボわからんよ。
「じゃあ、遠慮なく。それはそうと、まだ聞きたいことあるんだけど。僕が行く世界ってどんなところ?」
ファンタジーとは聞いたから、魔法とかあったりするんだろうか。
あと魔族とか精霊とか。
「あーうん、あのね。割と典型的なファンタジー世界だよ。
中世ヨーロッパな感じで、魔法とか精霊とか魔族とかある」
わーお、そこまで露骨にわかりやすいと逆に楽しみだよ。
「具体的には?」
「まず大まかに分けて、人間と魔族と精霊が存在する。それぞれの中からさらに細分化したり、もっと細かい種族とかいるけど、そこは割愛。で、この世界には大陸二つあって、それぞれ人間領の『アスタロッド』と、魔族領の『ダリアルク』って呼ばれてるね」
「精霊は?」
「精霊は領土を持ってないよ。強いて言うなら、精霊は自然そのもので、精霊の寄り付かない場所は衰退する。普通の人には見えないけど、精霊に好かれる素質を持った人は精霊が見えて、且つ精霊の協力を仰ぐことができる。これが俗に『精霊術』と呼ばれる」
「自分の魔力を使うのが魔法で、精霊の力を使うのが精霊術ってこと?」
「そうゆうこと。いきなり精霊術の話しちゃったけど、魔法については説明いらないよね?君が言った通りの物だから、多分君が想像してるとだいたいあってると思うし」
「魔法って人間にも使えんの?」
「使える使える。まあ、人によって向き不向きはあるけどね。魔族だって、魔力はあれど、全部が全部魔法を使えるわけじゃないし」
「ふーん」
「あと、魔族の低級のやつで魔物って呼ばれてるのがいてね。人間の方に当てはめると野生動物みたいなもんだけど、凶暴なやつが多いから注意してね」
「……面白みがないくらいテンプレなんだ。で、人間と魔族ってやっぱり対立してんの?」
「まあねー。現在戦争真っ最中のはずよ」
「えー、マジかよ……まあ、でなきゃ勇者とかいらないか」
「…………まあ、大雑把にはこれだけわかってればなんとかなるでしょ。細かくは現地住民に訊いとくれ」
……なんか、今妙な間があった気がする。
なんだ、勇者ってワードか?
でも確かこいつ最初に自分で「勇者をやってもらう」って言ってたよな。
「……で、僕はそこで何すりゃいいの?当然魔王とかいるわけでしょ?倒しゃいいわけ?」
「そこは君の自由だ。君の好きにしなさい」
え、何それ。
「魔王倒したりしなくていいの?」
「うん。君がしたいならいっそ魔族側に付いてもいいし、普通に魔王倒してもいいし。どっち付かずで傍観者気取るもよし、両者共滅ぼしてもよし」
おいおいおいちょっと待て。
「え、ちょ、何それ。それって僕がどうするかで世界の命運決まるみたいじゃん。てか僕勇者なんだよね?神が勇者に魔族に付けとかどっちも滅ぼせとか、わけわかんないんだけど」
僕の言葉に、モノは今までとは打って変わって神妙な顔(だからないけど)をする。
今までの飄々とした雰囲気との差に思わず黙り込むと、モノはゆっくりと口を開いた。
「実は私は、君に一つだけ嘘をついている」
正直、逆に今まで嘘じゃないことの方があるのかと思うような話なのだが、今更なのであえてツッコまない。
いきなり変わったモノの雰囲気に呑まれて、何も言えなくなってしまったというのが本音ではあるのだけれど。
「君がなるのは勇者じゃない。
神だ」




