■一話
何卒、よろしくお願いします。
皆さん、こんにちわ。初めまして。
僕の名前は月見里 司。十九歳。大学二年。
テンプレチックな言い方をすると、どこにでもいるような極普通の一般人。
趣味がゲームや漫画や某笑顔動画だったりするけど、本当にどこにでもいる普通の人間。
ビバ☆オタク文化。
さて、現在、僕は今ままでの記憶の中でも前代未聞且つ究極に面倒臭い出来事に巻き込まれていると言えます。
え?何故って?
知るかボケ。
駄目だ、とりあえず落ち着こう。混乱するのは仕方ないけど、これじゃ埒あかん。
落ち着けー。深呼吸して素数を数えよう。
しかしなんでこうゆう時って素数なんだろうか。
正直未だに自分は素数と言われると咄嗟に1しか出て来ないんだけど。
つーかパニクッてるとはいえ、大学生としてどうなんだこれ。
落ち着くもんも落ち着かんよ。
てゆうか1って素数じゃないじゃん!
本当に大学生としてどうなんだよこれ!
……まあ考えてたって埒あかんし。
とりあえず周りを確認して見る。
なんかもうね、辺り一面、紙。本当に紙しかない。
それも馴染みのあるプリンタ用紙みたいなのじゃなくて、羊皮紙みたいな長いヤツ。
それらには必ず何かしら書かれてて、それぞれ空中で漂ったり滑走したりしてる。
ちなみに床はないけど何故か足裏には硬質な感触があって、足の下でも大量の紙が滑走している。
そして目の前に、人影が一つ。
そう人影。
目も鼻も口も見当たりゃしない。
人の形をした黒いもや的な何か。
そんなもんが目の前にいる。
正直夢としか理解しようがないんだけど、どうしたもんかね、これ。
「なんだ、反応薄いねぇ。ま、実際はそんなもんか」
目の前の人影は、のんびりとした雰囲気でそうのたまった。
そして僕は、目の前の人影に真っ先に言うべき言葉を口にする。
「……中二病なの?」
「ちげーよ。ちなみにその質問をしたのは君で二人目だ」
人影は面白くもなさそうに頬杖をつく。
ちなみに、何故僕がこんな発言をしたのかと言うと、目の前のこいつが「私は神だ」とかぬかしやがったからだ。
この場合、失礼極まりないがそう訊き返した僕に罪はない。
だってありえん。信じられるわけないし。
そしてできることならお近づきになりたくない。
頭の中が夜○月な人影とか厄介にも程があるわ。
病院行った方がいいぞ。主に頭の。
てか同じこと言った人いるんだ。無理もない。
「ま、今回は別に無理にでも認めてもらう必要はないんだけどね。今君に必要なのは、今自分がどうゆう状況にあるのか理解してもらうことさ」
「はぁ?」
話に流されてたまるか。
そんなことを思った僕は、咄嗟に疑問詞を口にする。
正直こんな得体の知れない輩の話に流されるのはなんか癪に障る。
てゆうかひじょ~~~に癪に障る。
こっちも話をさせろ。僕の言いたいことも聞け。
お・れ・の・は・な・し・を・き・け!
「ちょ、待ってって。理解も何もわけわかんないし。てかあんた誰?ここどこ?」
「まあまあ、順を追って説明するから。……ちょいと失礼」
「いや、ちょ……う゛っ!」
言いかけた僕を無視して、何か黒い物がベシャッと両目に被さるように張り付いてきた。
何これでかいキクラゲ!?
そして次の瞬間、天地が一転した。
*************
ゆっくりと目を開けると、そこには普段よく目にする蛍光灯と天井があった。
そのまま、僕は身を起こす。下には皺だらけのシーツを被った敷布団がある。
周りを見回すまでもない。
そこは紛れようもなく、自分の住んでいるマンションの一室だった。
……何これ、どゆこと?
夢オチ?夢オチかこれ。
「この日は日曜だったな。バイトもない久々の休日だってことで、君は寝てたわけだ。ちなみに時刻は午後五時過ぎ。……さすがに寝過ぎじゃね?」
現実かよチクショウ。
てか、あんたどこいんの?
不法侵入じゃね?
てかなんぞこれ。
「君の真ん前にいるよ。……まあ、そんなことはどうでもいいよ。今の状況と今君が見てる光景は、全く別の物だから。幻覚みたいなもんだよ。だから不法侵入ではない。断じて」
いや、最後んとこ強調しなくていいから。
てゆーか、この程度で寝過ぎとか言うなよ。
僕が本気で寝れば三十時間は平気で寝続けられるとだけ言っておこう。
「自慢になんないってそれ。んな一気に寝て一気に起きるような生活すんなよ。体壊すぞ」
うっせーほっとけ。
「……まあ、いいや。とりあえず君は、目が覚めてまず時間を確認した。それから、喉が渇いたから、冷蔵庫に飲み物を取りに行ったわけだ」
すると体が起き上がる感覚がして、足が勝手に冷蔵庫に向かって行った。
幻覚みたいなもんって言ってたけど、ずいぶんリアルな幻覚だな。
ゴースト○ックか。それとも写○眼か。
勝手に動く僕の体は冷蔵庫からリ○トンのレモンティーを取り出し、そのままごっきゅごっきゅと飲み始める。
おお、味までするよ。
ちなみに僕は飲み物の中ではレモンティーが一番好きで、一日につき500mlペットボトル二本消費している。
リ○トン最高。
午○ティーじゃ駄目だ。リ○トンがいいんだ。
「で、君はその後ベランダに出た。特に意味はなかったと思う。寝起きだし。風にでも当たろうと思ったのかもしんないね」
僕はペットボトルを片手にぶら下げてベランダに出た。
……うわまぶしっ。
「まあ、そんでしばらく君はボーッとしてたわけだ。眩しいからかわからんけど、ベランダの柵に寄り掛かる形で。……さて、ここまでは特に問題ないな。だが、ここで問題発生だ」
え、何?問題?
頭の上にハテナマークを浮かべていると、一際強い風が吹いて、次いで右耳に女性の声が飛び込んで来た。
「あっ、あー待ってぇ!」
お、この声は隣の奥さんじゃあないですか。
お隣さんは先月引っ越してきたばかりの新婚さんで、夫婦共にかなり若い。
特に奥さんなんて僕より年下なんじゃないかと思うぐらいだ。
そんな若奥様の声に振り向くと、突風に煽られて一枚のタオルが目の前を横切って行った。
取り込もうとした洗濯物が飛ばされたのかな?
「よっと」
咄嗟に宙を舞うタオルに手を伸ばす。
が、届かない。僕の右手は虚しく空を掴んだ。
寝起きで眼鏡をかけていないから、距離感がいまいち掴めない。
「ああ、くそっ」
そのまま身を捻ってさらに手を伸ばす。
よし、今度はちゃんと掴まえられた。
しかしホッとする間もなく、グラリと平衡感覚が狂う。
「え」
え。
何。
これ。
右手は掴んだ洗濯物。
左手にはリ○トンの飲みかけのボトル。
両足はベランダの床に……
……着いてない。
体は半分以上ベランダの柵を越えていて、既に落下が始まっている。
確認できたのは、奥さんの悲鳴と、急速に遠ざかる自分の部屋のベランダ。
そして―――
「そこまで」
その声に、ハッと目が覚める。
目の前にあるのはさっき見た、非現実的な空間。
そして、自分の顔からゆっくりと手を離す人影。
さっきの黒い物体はこいつの手か。
新手のキクラゲかと思った。
「…………」
僕は自分の体を見下ろす。
五体満足。
生きてる。
「言ったけど、さっきのは幻覚みたいな物だよ。今の君に影響があるわけじゃない。ただ、君が見た物、あれは紛れようもない現実さ」
人影は僕から数歩離れると、おもむろに、ピ、と僕を指差した。
「君は死んだ。そうゆうこと」




