幸福(まやかし)屋の妖怪占いばあばのつぶやき
【今日もまた、人間が滑稽な願いを捧げに来る。】
アタシは妖怪占いばあば。
もともとは占い師が使っていた大きな水晶の珠に宿る、ただの付喪神だったんだ。ところが、その馬鹿な占い師が客と揉めて、大切な水晶を粉々にしちまってね。
行き場を失ったアタシは赤紫の霧になり、その場所に縛り付けられた。仕方なく屋台村を漂いながら、人間たちの相談を眺めていたのさ。
あれは、アタシにとって極上のエンタメだったよ。
やってくるのは欲望の塊ばかり。「未来を占って」「導いて」。結局、みんな自分の望む通りの答えを欲しがっているだけなんだ。そんな汚い澱に触れ続けているうちに、アタシの中に奇妙な変化が起きた。
人間の欲深さに頭に来た反動で、妖術が使えるようになったのさ。
それならいっそ、とアタシはふっくらした優しい笑顔の老婆に化け、屋台村の片隅で店を構えることにした。
「ばあば」なんて呼ばれてさ、当たると評判になれば、人間たちは面白いくらい吸い寄せられてくる。笑っちゃうよね。
アタシがやっていることは単純だ。
客が抱えるドロドロとした澱を水晶に閉じ込め、代わりに別の客の澱をそいつの心に入れ替えてやるのさ。
ただ、この「入れ替え」にはちょっとした職人芸が必要でね。ただ混ぜればいいってもんじゃない。客の器……つまり魂の容積や、その人間が抱える欲望の粘度に合わせて、澱の濃度や成分を微調整しなきゃならないんだ。
この「澱の調律」こそが腕の見せ所さ。あまりに刺激が強すぎると器が割れちまうし、薄すぎれば満足感がない。まさに、毒を薬に見せかけるような高度なテクニックが必要なのさ。
ああ、汚くて嫌だね。入れ替えられた澱は一度自由になる分、余計に濃縮されていく。手元ではもう、臭いまでしてくるよ。
みんな、アタシの術で勘違いしたまま満足して帰っていく。「ありがとう、楽になった」なんてニコニコしながらさ。
実際は、前よりもパワーアップした悪い澱を抱えて帰っているだけなのに。自分の人生くらい自分で決めればいいものを、人に頼るからこうなるのさ。
まあ、しばらくは勘違いしたまま幸せに浸っていればいい。その先に待っている結末なんて、全部自業自得だろ?
それが楽しみで、アタシは毎夜こうして屋台村の片隅で占っているんだ。
さて、そろそろこの場所にも飽きてきた。もう少ししたら、外へ出られるだけの力が溜まりそうだ。
次に行く場所でも、幸せになったつもりの人間をたっぷり眺めてやるとしよう。
さて、次はどんな風に人間を嗤うかねぇ。




