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別に俺は絶望した訳ではなかった。ただ、「盾」という如何にも「守ります!」みたいなロールはやった事なかったなと思っただけだ。
まあ1つあるだけ上等か。前世ではこんなのなかったのだから。あるだけマシ。多少、いやかなり生きづらいとは思うが、それは何とか頑張っていこう。
それにしても才能とは残酷だ。俺は盾の才能しかないのだから。いや、盾の才能だって本当にあるか分からない。才能とはそれを楽しめる力も含んでいるのだから。盾のことが好きになれるか。それが少し不安だった。
☆
なんやかんやあって俺は家を追い出された。そしてアルディーン家にノアという存在は生まれてなかったことになっている。持っているものは母が持たせてくれた盾と同じく持たせてくれた餞別のお金だけ。1ヶ月ぐらいは宿暮らしできるだろうが、それだけのお金しか貰ってない。
さて、これからどうしたらいいのだろう。やはり盾を活かしていくしかないか。盾といえば騎士だろうか。それとも冒険者だろうか。まあ、実質一択か。
俺は冒険者ギルドにやってきた。5歳というのは少々目立つ。が仕方ない。受付になんとか顔を覗かせて、話しかける。
「すみません。冒険者になりたいんですけど」
「冒険者になりたいのですね。それでしたらこちらに記入をお願いするね。文字の読み書きはできるかな?」
「できます」
お姉さんは変な言葉使いになりながら対応してくれた。
年齢:5歳
名前:ノア
スキル:盾
「スキルは盾だけ?」
「ええ、冒険に役立ちそうなのはこれだけです」
俺は誤魔化して答える。スキルが1つしかないとバレたら面倒なことになりそうだと思ったから。
「うーん、盾だけじゃ大変かもしれないわ」
「それでもいいです。」
「うーん、分かった。そこまで言うなら登録してあげる。でも困ったことがあったらお姉さんに相談してね?」
「はい。」
「はい、これが土塊の冒険者証。冒険者は土塊から始まって、青銅、赤銅、黒鉄、鋼、白銀、黄金と続くわ。ちなみに今は黄金ランクの冒険者は1人しかいないみたいね。依頼は受付に聞けばその人にあった依頼を受けれるわ。分からないことはあった?何か依頼を受けていく?」
「依頼を受けたいです。」
「そうだなぁ。でも盾で1人となると難しいね。スキルはないけど、採取とかやってみる?」
「誰かとパーティを組むのは難しいですか?」
「そうねぇ、声をかけてみることはできるけど、難しいと思うわ」
「それはなぜ?」
「やっぱり年齢と、後は盾だけっていうのがちょっとね。有用なスキルを沢山持ってる人の方が求められてるのは分かるわよね?」
「はい、そうですね。では声をかけるだけお願いしてもいいですか?それまでは採取とか雑用とかやっていようと思います。」
「それがいいと思うわ。採取だと常設依頼のキラボシダイコン、フロセリア草、グラノヴァ草辺りが取りやすくていいと思うわ。見分け方は分かる?」
「いえ、分かりません。」
「ちょっと待ってね、見本を持ってくるから…はい、これがキラボシダイコン。葉っぱが星のような形なのが特徴よ。あなたもよく食べるでしょ?こっちがフロセリア草。薬草ね。細い葉っぱが特徴よ。グラノヴァ草は逆にまん丸太った葉っぱが特徴。わかった?」
「はい、何となく…」
「まあ、最初は分からないものよ。徐々に慣れていけばいいわ。それじゃあ頑張って!常設依頼は受付する必要はないから、何時でも持ってきていいわよ」
「分かりました。ありがとうございました。」
俺は冒険者ギルドを出て採取に向かった。盾の練習もしたいなと思いながら。