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世の中は結局運だ。

この事実に気づいたのは高校3年生の時だった。


3年前、俺は都内で2番目の高校に入り、偏差値は75を超えた。最初の挫折はそこだ。どれだけ勉強をしても平均しか取れない。自分の手の届く限界の高校に入学したおかげで周りは自分より優秀な奴らばかりだった。そして俺は勉強への意欲を失った。今思えばもう少し下の高校に入って、周りを蹴散らしながら無双してた方がまだ気分よく勉強できただろう。所詮俺は二流の男だ。小さい世界で最強を気取れればそれでよかった。


そうは言っても大学受験は迫ってくる。俺は塾に入り勉強を重ねていた。なんでも分かるような気がした。この調子でいけば東大だって目指せると、そう思っていた時の話だ。


俺は両親と喧嘩していた。両親は頭が固かった。自分の当たり前が世間の当たり前。家事を手伝うのは当たり前。良い大学に行くのは当たり前。自分の持てる全力を出すのが当たり前。辛くても学校に行くのが当たり前。


俺は完璧主義者だった。元々限界ギリギリまで頑張っていたところに更に頑張れという親の激励。俺は更に頑張ろうとした。無理をしすぎた。そこで俺は精神を病んだ。うつ病だった。


でも俺の両親は初動を間違えた。そこでかける言葉は「まだやれる」、「みんな辛い思いをしながら頑張ってる」じゃなかった。もっと優しい言葉が欲しかったんだ…俺のうつ病は悪化して、全く動けなくなった。それでも止まない親の言葉に耐えられなかった俺は逃げるように家を出た。


親ガチャ失敗。


そんな言葉が脳裏をよぎる。生まれた瞬間に人生は決まっていたのだろうか。世の中には生まれて間もなく死ぬ子どもだっている。それは本人の頑張りとか関係ない。赤ん坊がどれだけ頑張ったって自身の死の運命は変えられなかっただろう。


そこからだ。全てが運で決まると思いだしたのは。才能は運だろう。では本人の努力はどうだろうか?俺は「努力できる才能があったから努力できた」と思っている。


いや、自分は頑張ったんだ。才能じゃない。自身の頑張りが今の自分を形作っているんだ。


そういう人もいる。それでも俺は世の中は才能だと、全て運だと思っている。努力ではどうしようもない現実を知ってしまったが故に。



「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「○○」

「○○」


俺は泣くことしか出来なかった。息が苦しい。頭が回らない。


でも不思議と危機的状況という感じはしなかった。それは周りの雰囲気がそうさせるのだろう。俺は落ち着いて現状の回復に努める。


「○○」

「○○」


上手く聞き取れない。世界がぼやけたような、曖昧な音しか聞こえなかったが、それでも知ってる単語が1つも聞こえないことには気づいていた。


俺は思考を放棄していた。少しでも冷静に。現状を受け入れてその上で最善を探るのが良いと分かっていたから。


今まで感じていた身体の不調や精神の不安定さが、今はないことに少し安堵しながら。

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