Ⅲ変わりやしない日常(1)
カタルパにとっても新しい旅のはずなんだけれども、人が増えただけで何も変わりやしない。
作者はカタルパのそれまでについて書いていないわけで、新しい旅だと思っているけれども、
カタルパにとってそれは新しくもなんともない日常なのだ。
そう思ってしまう作者は自分の考え方を省みて、ため息をついた。
「あー。病んでるな、自分」
学校の入学式や卒業式、受験、様々なことを経験しても、人間そのものは変わらない。
制服が変わったり、毎日出かける場所が変わったり、そういうことはあるけれども、
それを「よくある、そういうこと」として捉えているのであれば、毎日は変わりやしない日常なのだ。
試練を受けて、カタルパは変わったか?
もともと体が弱く障害があって歩けないという境遇が何だというのだ。
障害があるというのは、不便なことかもしれないけれども、
障害者のためのお金がもらえる。
「毎日生活するだけでいっぱいいっぱいだからなぁ……」
受験のために塾に行き、良い大学を出た。
なのに、超氷河期で希望の就職……なんてなかった。
全部外れ。
「結婚して子供を産む。それが出来そうだから御社への入社を希望するのです」
こんなことを言えば不合格確定。
正直なことをいう女は、会社には必要ない。
嘘を学ばないと。それが大人になるということだった。
その日常に嫌気がさした時に、一つの広告がポップアップで出てきた。
「田舎に移住しませんか」
都会生まれ、都会育ちの作者にとってそれは、新しい選択肢だった。




