Ⅰ大人になる(4)
「お黙り、お前たち」
収集がつかなくなったので、長老がちょっとセクシーな声を出して場を整えた。
(ばあちゃん、こんな声も出せたんだ)
ちょっと浮ついたようなことを思ったカタルパの顔の横を火球が飛んでいった。
「お黙りといったよね、カタルパ」
齢80は越えているはずなのに、魔法の腕は衰えないし、カタルパをにらむその眼力もとても強い。カタルパの背筋が凍った。この強さで数々の魔物たちを屠ってきたのだ。その実力はまだまだ健在である。
「ここは始まりの村。異世界の人間が最初におとずれる村だ。世界で最もヒズミに近い場所にあり、全ての世界の境界にある。この村に生まれた人間は、他の世界の人間を導師なのだ。他の世界からやってきた者がうまくやって行けるように導いていく。カミサマからその役割を与えられているのだよ」
長老はニコニコと笑いながら世界のでっかい理のことを明かした。
この物語は、異世界である。現代社会とも現代日本とも関係のない異世界なのではあるが、その異世界には異世界の異世界から異世界人がやってくる。始まりの村は、この世界において全ての異世界の人々が最初に辿り着く場所で、そのことはこの村の人間以外知らない。
「ちょっと待って、異世界があるってこと?」
「おや、そこから説明しないといけないかい? 異世界転生なんてのが流行ってるらしいけど、これは、異世界転送だよ。送られてくる人がここにやってくるんだ。始まりの村の人間は、転送人の導き手になるのがカミサマから与えられた役割なんだ。転送人と試練を乗り越えることによって、一人前になる。それが、私たちが先祖代々やってきたことなのさ」
長老はうんうんとうなずきながら、カタルパに話をした。