Ⅰ大人になる(35)
その考え方はとても恐ろしいものだったけれども、その心の内を知る者は居なかった。その不満に対して、SNSは同情的だったり共感的で、三屋はその自分の考え方を正しいものと思うようになっていた。
俺は殺したわけではない。
見ていなかった。気付かなかった。
間違ったことは何もしていない。
彼女がここにくることは知らなかったのだから……。
椿と貴が作っていたものは、三屋が良いと思えるものだったから、彼は梓に言ったのだ。
「まぁ、観光案内所に来るなら、内緒で見せる事もできるだろうけど……」
脚に障害があって不憫だなとは思っていたけれども、三屋は梓に対して不穏な気持ちを抱いていたわけではない。梓はよく笑うし、可愛かったし、三屋のことを慕っていてくれる。
恋心とかそういうのではないけれども、ちょっとしたしぐさに心が引き寄せられるようなこともあった。そんな梓だったから、彼女が喜ぶようなことだろうなと思って、貴と椿が三屋の指導を受けながら作っていたビジュアル作品のことを話したのだった。
誰にもばれないように、梓は両親が出かけているときを狙って観光案内所に向かった。その前の日に梓に出会った時に、言ったから。
「いつでもいいよ。来れるときに、歓迎するよ」
車いすの梓が、わざわざ外に出かけたのは、三屋の言葉がきっかけだ。梓の発作が起こったのは偶然だ。でも、三屋は苦しんでいる梓を見たんだ。それも偶然見てしまった。発作を起こしたのは、観光案内所から離れたところだったから、観光案内所に向かっていたということは定かにならない。見たから、梓に異変が起こったのを察した。でも目をそらした、声をかけなかったし。助けなかった。そのまま通り過ぎた。




