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Ⅰ大人になる(34)

 三屋にとって、その街は仕事先でしかなかった。大企業の子会社に位置付けられるところで働いていたが、思ったような仕事ができないし給料が低い、その上、上司とのウマが合わず半年で退職した。その後しばらく映像と音響編集のソフトを独学で学び、インターネットでこの町の観光案内所の仕事を見つけて応募した。


 何も期待していなかった。金がない。だから仕事のあるところにやってきただけだった。やっとありつけた仕事だった。これしかなかったんだ。


 働いてみて、悪いところではないと思った。でも好きかと言われたら、どう答えて良いのか分からない。多分ノーだ。それが仕事だというものだと、周りの人たち、倫理的な良い人たちはそういった。都会でいい仕事に出会えて、順風満帆な人は、三屋とは違う人生を送っていた。三屋の仲の良かった仲間が結婚したり、同棲を始めたり、充実しているという話を聞くと、羨ましいと思った。自分がみじめになった。


 都会に戻ったところで、自分の居場所があるわけじゃない。この町にいれば食べていくことはできる。だから、やめられなかった。恋人も心から信頼できる、自分の本性を出せるような相手は見つからなかった。この町にあったのは孤独だった。そう、端的に言えば、三屋は馴染めていなかった。それでも嘘をついた。そうしなければ食べていくことができなかった。


 給料は上がらなかった。そういう世代だ。日本のバブルなんて知らない。頑張っても給料が上がらない。みんなそうだ。自分もギリギリで生きている。それなのに税金はしっかり取られる。そのお金があれば、自由は広がる。そのお金を使うのは誰だ? 苦しい自分をより苦しくするのは誰なんだ。


 福祉を享受している奴……。

 ……障害のある人間だ。

 社会のお荷物は死ぬべきなんだ。


 三屋の中にはそういう考えがあった。


 

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