Ⅰ大人になる(32)
親に行きたくないって言っても、絶対に許してくれないことはわかってる。
だから、白虎塾に行く日は、行くふりをして観光案内所の三屋のところにいった。
その町、そこにある社会はすごく狭い社会。そこに住んでいる人間の情報は筒抜け。
椿と貴が頻繁に会っていることはみんな知っていた。
椿と貴が付き合っているだの、下らない冷やかしもあった。
梓がいたから繋がったという関係に過ぎなかったのだけれども、心のうちは分からない。
「みんな分かってないよね、貴は友達。私が好きなのは梓だから」
「……知ってるよ。俺も椿より梓のことが好きだからな」
「でも、梓は私のことの方が好きに決まってる」
居なくなった梓は、2人の心の中には生きている。
真っ暗な心を癒すことができるのは目の前にいる人だということは2人ともわかっているけれども、
そうすることは梓の存在を消すことになることで怖かった。
まだ、2人の中に梓の身体があって、それが消えることを恐れている。
棺の中の穏やかな梓の顔を見たのに、触れたのに、それが生きているのとは違うのに、
それを認めることができずに居たし、それが人間的な抵抗なのだとも思っていた。




