Ⅰ大人になる(30)
「貴君と、椿ちゃんは、友達として私を見てくれてた。……でも、無理だったよね」
梓は本当の自分を他の人に見せることはできなかった。
良い子でいた。
良い子であろうとした。
良い子じゃないといけないと思った。
社会は、梓のことを障害者としての色眼鏡を通じてみている。
じゃあ、その色眼鏡を外すのではなくて、色眼鏡をかけてみた時に、
自分が一番いい人間、魅力的である障害者であれば、愛されると思った。
それが、梓の生存戦略でもあった。
ニコニコ笑う。良い子。
文句を言わない。だから、好かれる、何かがもらえる。
そうだ、それでお金がもらえるなら、稼げるならいい。
そうなるために笑おう。
弱音なんて吐かない。
良い子で居よう。だから、梓は愛される。
みんなに愛される、素敵な梓で居ようと嘘を演じていた。
カタルパはレアルトを見て、言った。
「本当の自分があまり好きじゃなかったの」
「……」
「だから見せたくなかった。ごめんね。友達だって思ってたのに」
「……好きじゃなくて当然だろ。生まれつきみんなと同じように動けないなんて、好きになれるはずないだろ。よく頑張ってたと思うよ、梓は……」
「でも、嘘つきなんだよ、梓は」
「必死で嘘をつき続ける梓が好きだった。だから、一緒にいたんだ」
「そうなの」
「多分、椿もそうだったと思うけど」
レアルトに言われて、カタルパは心の底から安心した。




