Ⅰ大人になる(27)
悲しかったり、悔しかったり、悪い気持ちが身体に留まる時は、
何かをしている方が気が楽になる。
観光案内所の三屋さんは、椿と貴のことを気遣ってくれて、
梓の歌とそれを盛り上げるPVを作ることを続けられるようにしてくれた。
芸術祭の催しはうまくいったんだ。
それはあくまで通過点だったのに、もうそれで終わりだなって思った。
梓をVRアイドルにすることはできるかもしれない。
でもそんなことをしても梓は戻ってこない。
「勉強、しねぇの?」
「するわけないじゃん」
白虎塾からの連絡と、2人の保護者達からの連絡。
みんないう。勉強して、社会に敷かれたレールの上を走れと。
良いレールを選べるように勉強しろと。
勉強なんてそもそも好きじゃなかったし、する気になれなかった。
好きな人を失う。それは他のことをする気力も失わせる力を持っていた。
もしも、梓を好きになっていなければ、こんな気持ちにならなかったかもしれない。
そんな風に仮定してしてみたけれども、それは違うと椿は首を振った。
会わなかったということも、好きにならなかったらということも、仮定したところで意味がない。
会って、好きになったから今の椿になったわけで、
それがなかったら、全く違う人生になっていたはずだ。
全く違うわけだから、想像もつかない。
それでいい。




