Ⅰ大人になる(23)
梓を迎えに行くときは、貴と椿は一緒にやってくるのだけれども、その日は別々にやってきた。
「ねぇ、どうして喧嘩してるの?」
「別に、何もないけど」
貴がむくれた顔で、言うと、梓は笑った。
「そっか、貴君に問題があるんだね」
梓は2人のように自由に動くことができなかったけれども、それゆえに洞察力が高かった。
貴は、椿が好きだから、焼きもちを焼いている。
いいなぁ。こんな感じ。すごく、中学生してて……。
梓を中から見ているカタルパは、その梓を見て、複雑な気持ちになった。
「あなたは一人ぼっちなのね、悲しくないの?」
カタルパにそういわれて、梓は首を振った。
「私は、ここに居られることが幸せなのよ」
梓は自分自身のはずなのに、カタルパよりずっとずっと物事をわきまえているというか。悟りを開いたような感じだった。カタルパの鼓動がはやく、大きくなった。
「あなたみたいに五体満足じゃないから、私は知ってるの。今が幸せだということ」
「……」
「傍にいられること、元気に生きていられること。それがかなわないからこそ知っている幸せ」
「……そんなもの、知りたくない」
カタルパは、梓に向かって叫んだ。梓の言葉は嘘じゃなかった。でも、幸せというのには拙い。
生まれた時から、脚がみんなのように動かない。その上身体は誰よりも病弱だ。幸せなわけないじゃないか。




