Ⅰ大人になる(18)
そういっている貴も、好きだなんて梓には言えない。梓は、いつもにこにこしている。
脚が不自由なのに、楽しそうで、弱気なところを見せない。だから傍にいる。傍にいたい。
だって、梓の歌声は、誰よりも心に響くから。
音楽の授業に行く梓はとても楽しそうで、特に歌う時は無敵だった。
ソロで歌う時、彼女はキラキラと輝く……。
もう大分前の話になるのだけれども、歌の試験の時のことだ。
試験の時には、3人までの小さなグループで前に出て歌うんだけれども、
梓は1人で歌いたいと言った。
梓の席は、一番前だったけれども、人よりも前に出るのは時間がかかる。
よろよろとした、でも、見慣れた彼女らしい方法で、音楽室で一番目立つ位置まで進み、その場所から全員の顔を確認して、まず笑った。
そして、大きく息を吸った後、歌い出した。
庭の千草も むしのねも
かれてさびしく なりにけり
ああ、しらぎく 嗚呼白菊
ひとりおくれて さきにけり
露にたわむや 菊の花
しもにおごるや きくの花
あはれあはれ あゝ白菊
人のみさおも かくてこそ
まず歌いだしたとき、みんなポカーンとした。だって、この曲は授業で習った曲ではなかったから。
試験で歌っていい曲は決められていたのに、だれもそれを止められなかった。
圧倒する歌だった。




