Ⅰ大人になる(15)
翌日、アリアに連れられて、森に向かうとレアルトとカメリアは先に到着していた。他の村人に連れられてきたみたいだ。
「遅かったな。5分前集合は常識だろう」
偉そうに話すレアルトに、カタルパは舌打ちをした。
(5分前集合って何だよ、異世界の常識で話すなよ)
そもそもこの世界には時間という概念が希薄だ。異世界からやってきたパートナーに教えられて、時間を理解している人もいたけれども、それは全ての人間が共有しているものではない。飛行機や電車など大人数を載せて移動する乗り物は、そういうものもあるような話は聞いたことがあるけれども、カタルパの知っている範囲ではなかった。
アリアに連れられて3人は森の中の試練の洞窟に入った。思ったよりも天井が高くて、そこに長老と同い年くらいのおばあさんがいたのだった。
「よく来たね、今回は3人も来るとは、ヒズミの宣託は面白い」
「お使い様、お元気で何より」
お使い様というのはカミサマの使いであることからそう呼ばれている。
「女性なの?」
お使い様と長老がパートナーということを聞いていたから、カタルパは驚いた。2人が80歳くらいということを考えると、もう65年も前から同性カップルというのは存在していたということになる。
「何をそんなに驚いてるんだい」
「あ、何でもないです」
同性愛についてとやかく言うと差別なんて言われるかもしれない。そういうややこしいことになるのは面倒だなと思い、カタルパは何にも気付いていないようなふりをした。
フクシアとインディゴの様に仲の良い夫婦だとカップルだというのを前提で話をスムーズに始めることができるけれども、そういうわけではないという世界は結構カオスだ。効率性が悪い。レストランの席は基本的に偶数だし……。多様性の時代というのはそういうのを越えなければならない世界で、それを越えるためにわざわざ多様性という標語が掲げられているのだ。
「こっちに来な」
祭壇の前には、模様があってそこには2人が座れるような感じで描かれていた。カメリアとレアルトは当然の様にそれぞれ座れるような位置に行って、カタルパはどこに行くべきか戸惑った。
(そりゃあ、2人組が普通ですもんね)
カメリアとレアルトの間に、大分小さいけれども円があって、そこが一番おさまりが良いように思えたのでそこにちょこんと座って、カタルパはお使い様に言った。
「えっとここで良いですか?」
「十分だよ」
そういうと、お使い様は持っていた杖を振りかざした。




