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Ⅰ大人になる(14)

 ラーナスの魔物を服従させてしまう能力は、カミサマから彼に与えられた特別な力だ。


「ラーナスみたいな力だったらいいのにな」


ラーナスに上目遣いをしたあと、カタルパは恥ずかしくなって目を逸らした。ラーナスはそれに気づいていて、少し笑った。


「本当にそう思ってるか?」


「思ってるよ。ラーナスが居るから、「子羊座」は快適な旅が続けられる。魔物の獣車なんて、うちくらいだよ」


「俺にその力があるから、うちには要らない力でしょ」


「あ、そっか」


それはラーナスが「子羊座」に居てくれる、傍にいてくれるということを意味しているのだとカタルパは思って思わず笑みがこぼれた。


 ラーナスは自分のことを他人ごとの様に話すときがある。ラーナスは始まりの村で生まれた。だから、異世界から来た誰かと一緒に試練を越えたはずなのだけれども、その詳しいことをカタルパは知らない。アリアも同じように自分の経験した試練のことを話さないし、彼女もパートナーのことを話さない。そういうものだったから、あまりに気にしていなかった。けれども、いざ自分が試練を受けるとなると2人の話が気になる。


「ラーナスのパートナーってどんな人だったの?」


「知ってどうするの。話しても分からないよ」


「ね、ちょっとでも教えてよ」


「……面白い奴だった」


「えー。それじゃわからないよ」


「分かるよ、うまく言葉にできない」


「じゃあ、どうして、一緒に居ないの?」


「一緒に居ないほうが楽だから」


「それは、自分のパートナーが嫌いだから?」


「嫌いとかそういうのじゃない。好きでもないけど。最初は苦手だったかな。お前も苦手なんだろ、あの2人のこと」


「別に、まだ、知らないし」


「知らないなら、傍にいて理解しようとすればいいんじゃねぇの?」


「でも、別に……。これからずっと一緒に過ごすんだよ」


「これから、ずっとね……試練はほんの数日だろ」


「……きっとそれから先もずっと……」


「お前はそう思うんだ。俺はそうじゃなかったけどな」


ラーナスと話をしていると心が落ち着いた。今は時代が変わって、試練を一緒に受けた転送人と試練の後も一緒に過ごすかどうかはそれぞれ次第なのだけど、やはり通常のことを考えてしまう。通常は一緒に過ごす。フクシアとインディゴみたいに仲のいい夫婦みたいになるのが普通だが、カタルパの場合はパートナーが二人もいる。一夫多妻……。カタルパは、一夫一妻であることを望む人だったから、そうなる可能性もあると、何だか気持ちが悪いと思っている。


 でも、結婚しない。パートナーは持たないという選択肢になるんじゃないかなとも思う。結婚するというのは、ずっと一緒に居るっていうことで、何だかしんどい。カタルパは歌を歌うことが好きだけど、その歌を歌うために自分独りの時間が欲しいと思っている。インディゴとフクシアは、10歳ぐらいから、保護者から自立するために意識的にカタルパ放っておいてくれるようになったし、アリアもラーナスも独立した大人だから、カタルパが求めない限り、独りの時間を大切にしてくれる。この環境が変わるというのはカタルパにとっては不快なことだった。


 それでも、試練を受けなければ大人になれない。しかも、カメリアとレアルトと一緒に……。一緒にということがあまり好きじゃないカタルパにとって、パートナーができる、しかも2人もできるというのは違和感しかないことだった。



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