1話『勇者』
森の最奥に佇む年季の入った一軒の家。
そこに私ことリーシェ・ルーグは住んでいた。
「やっぱり。この紅茶は格別に美味しいわね?」
そんな事を呟きながら私が優雅にティータイムを
楽しんでいた。その刹那
バゴーンという豪快な音と共に家の扉が一瞬にして
破壊される。私はまたかと思いながら溜息を零す。
「何度。扉を破壊すれば気が済むのかしら?」
「リーシェに会えると思ったら。つい気持ちが
昂ぶって。」
藍色の髪に瑠璃色の瞳を持つ少年の名は
オネット・シルヴァーツ。
私が15年前に拾った勇者の申し子だ。
「私は言い訳されるのが嫌いだと言った筈よ?」
そう怒気のはらんだ声で告げるとオネットの表情が
一瞬にして崩れる。
「ごめんなさい。」
「分かれば良いのよ。」
そう言って私は壊れた扉を魔法で修復する。
まだ私が怒ってると思っているのか?
オネットは不安そうに私の表情を伺っている。
「心配しなくても。もう怒ってないわよ?」
その言葉にオネットは安堵の息を漏らす。
「それなら良かった。俺はリーシェに嫌われたら
生きていけないから。」
最強と謳われている勇者とは思えない発言に私は
思わず溜息を吐く。
「私としては良い加減。親離れして欲しいものだけどね?」
「俺はリーシェから離れる気なんて微塵たりともない。
例え死んでも俺はリーシェの傍に居る。」
いつになく真剣に告げるオネットに
私は再度溜息を吐く。
「貴方は私と居るべきじゃない。そもそも二千年以上の時を生きた私と十五年程しか生きていない貴方
とでは価値観が違い過ぎる。」
「それでも俺は…」
「貴方には未来がある。だからいつまでも私に
囚われる必要はない。それに私は貴方が居なくとも
生きて行ける。」
その言葉にオネットは表情を歪ませる。
オネットにとって私はたった1人の家族だ。
それ故に私と離れるなんてオネットからしたら
考えられないのだろう。
それでもいつかは私から離れなければ行けない。
オネットはいずれ世界を救う勇者となるのだから。
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