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青天の霹靂ー別サイドー

「……よかったのか?」

「よくはないが?あれだけの勇士を?あちらにくれてやるのは業腹に決まっておろう?それでも妾のためにも必要な策よ。仕方あるまい」


 忠実な騎士が辞去した後の王女の部屋では、ビーランが婚約者に疑問を投げかけていた。なんだかんだで強欲の彼女が、あっさりと腹心とも呼べるアランの手を離したことが納得いかなかったらしい。そしてやはり、肯定が返ってくる。


「ふーん?だが、それにしては理由が弱くねーか?ほかに何かメリットでもあんのか?」

「別にないが?と、言いたいところだが、あやつは妾のそばにいる限り人としての幸せを手にすることができん。あれの父親にも懇願されたしな」

「は?どういうことだ?」


 器用に片方だけ眉を吊り上げた婚約者に、ナリーニはため息を返す。


「神官家系故か神の加護があるせいか、あれは妾を神のごとく崇拝しておる。信仰といってもいいかもしれんな。そしてその信仰に殉じることをいとわぬ。まるで神の道具のようではないか。妾は道具ではなく人にそばにいてほしいと思っておる」


 ナリーニの脳裏に、出会った頃のアランが現れる。当時は次期国王に内定したばかりで、婚約者争いが激しかったころだ。裏切ることのない側近が欲しくて、何物にも染まっていない幼子おさなごであるアランを取り立てた。それは正解だったが、まさか人としての欲も自身の幸福も顧みない忠臣となるとは痛い誤算であったとうなる。

 様々な思惑が渦巻く宮中で、心を預けれる存在など少ない。道具と思っていたほうが楽かもしれないだろうが……ナリーニには土台無理な話であった。寂しがりやな彼女らしいとビーランは「さもありなん」と内心頷く。


「あれは跡継ぎではない故ずっと取り立てていたが、妾の婚約者が決まろうと何をしようと、自身の結婚どころか幸福なんぞ考えてもおらん。まぁ、妾のようにハチャメチャに美しい絶世の美女のそばにずっといたのだ、あれの美意識の最低基準を爆上げしてしまったことはさすがに申し訳ないと思う。妾が美しいばっかりに……。しかしだ。あれだけ優秀なのだ。その子も、妾に仕えるべきであろ」

「で、結婚ね……。うまくいけば隣国もどうにかできる、か。さらに精霊の血も手に入ればますますいうことはない、と」

「うむ。そも、妾ではあやつの伴侶とはなりえん。何せ妾はあやつの信仰対象。神であるからな。伴侶とは同じ立場の者から選ぶものだから、妾に触れることすらできんだろう。まぁ、たまに貴様のように分不相応に妾のような高嶺の花を求めるものもいるにはいるがな」

「は?お前はただの女だろうが。何言ってやがる」

「……これだから脳筋は……」


 王女でも次期国王でもなく、ただの「ひと」と……「女性」としてみてくれる、そんな相手が婚約者でよかったと、口にはしないがナリーニは思う。寂しがり屋の自分には、ただただ愛情を注がれることが何よりもうれしい。所かまわず口説かれるのはさすがに頭が痛いが。


「……まぁ、側近の婚姻相手を見繕うのも主の役目よ。本来であれば他国の公爵令嬢など、アランには高嶺も高嶺。しかし調べたところ、令嬢はアランの理想ど真ん中な容姿のようでな。これ幸いと骨を折ることにしたのだ。……『破滅令嬢』などと呼ばれ、理不尽にも虐げられている好みど真ん中の女性……身内に激アマで理不尽を許せんあやつのことだ。婚約者たる令嬢に愛されるよう、守れるよう尽力するだろうよ」

「は?あいつがその令嬢に惚れるってのか?お前じゃなく?」

「あやつの妾への感情は信仰と言っておろうが、たわけ。いわゆる偶像崇拝でしかないわ。本来のあやつの人間性との好みとは全く違うわ」

「ふーん?」


 納得していないようなビーランだが、アランとの付き合いの長さでよくわかっているナリーニがいうのだがからと飲み込む。ただこいつ、身分が身分のため色眼鏡で見られる前提だから、たまに相手の感情を見誤るんだよなぁとも思う。まぁ、アランは遠くに行くので良しとしておく。


「ま、お前に懸想してないってならいいさ。さっきのお前の「伴侶にはなれない」っていう発言は気に食わないがな。あぁ、後ナリーニ。ほんとにアランのやつがその令嬢に惚れるっていうなら、頑張れなんて言うなよ。なすべき事をしろとだけ言っとけ」

「は?なぜだ?アランには婚約者を口説き落としてもらわんと困るんだが?」

「あのなぁ。あいつは俺とおんなじタイプだ。ほしいものは絶対に手に入れる。それが当然で、頑張る、なんて感覚はかけらもねぇんだ。自覚できてないことをできるわけねぇだろ」

「……は?その理屈で言ったら、お前、妾の婚約者になるために頑張ったわけではないということにならんか?」

「だから、そういってんじゃねーか」

「苦手な座学も?人脈の構築も?」


 信じられない、という表情で聞いてくるナリーニに、ビーランは何をいまさら当然なことをと言わんばかりだ。


「あのな、努力ってのは自分の夢をかなえるために努めて励むことだろーが。俺はお前を手に入れることは当然で、叶わない夢でも何でもない。努めても励んでもない。お前を手に入れるためにすることは、息をするのとおんなじくらいのことだよ」

「……これだからこいつキライ……」

「は?!なんでだよ!!??」


 炎が出てくるのではないかというくらい顔をほてらせてうずくまる主と、怒りをあらわにするその婚約者に。彼女の側近たちは生暖かい目を向け見守るのだった。次期国王夫妻の仲が良いようで末も安泰である。

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